融合した魔王
【……なにこれ?】
店の地下室に設置したポータルを通って秘密基地にご案内。
きっと驚いてくれると思ったが、どうにもよくわからなかったというのが第一印象の様である。
『おかえりなさい、マスター』
俺に声をかけて出迎えたテラさんに、俺は軽く手を上げて見せた。
「ただいまテラさん。今日は客人を連れて来たよ」
『……その方妙な反応がありますが?』
「……わかってる。それ込みで客だ」
『了解しました。ゲストとして登録いたします』
ピピピピピっとニーニャを赤いレーザーがなぞり、登録は完了。
これで晴れて、ニーニャは我が秘密基地のゲストとなった。
俺はさっそく混乱しているニーニャに手短に説明をした。
「えー。俺としては君を受け入れることにした。だから俺も秘密を教える。今話していたのがテラさんだ。色々知っているからどうしても知りたいことがあったらとりあえず聞いてみるといい」
【……】
そう促すと、ニーニャはなんだか妙に焦っているように見えて、ちょっと涙目で俺を見た。
「……どうした?」
『おそらく。彼女の意思疎通の手段では私と会話できないのではないでしょうか?』
「ああ! テレパシーだからね! ……わかった。丸投げよくないね。困ったことがあったら俺に聞いてくれ」
【……ここはいったい何?】
改めて俺にそう尋ねてきたニーニャに俺は目を輝かせた。
「ここはそう……秘密基地。それ以外の何物でもない場所だとも」
【秘密基地? ……よくわからない】
『それでは説明になっていないのではないでしょうか?』
「う、うむぅ……どっかの世界から転移してきた施設だ。秘密にしてるからあんまり人にしゃべらないでね?」
だがこういうのはハッキリ言葉にしてしまうと、途端に胡散臭くなると思う。
やはり俺の説明が胡散臭かったのか、テラさんからは謝られてしまった。
『申し訳ありません。確かに説明のしようがありませんでしたね』
「謝らないでくれ、テラさん! 悲しくなるから! これから! これから頑張るから!」
案外説明しようとすると難しい秘密基地についてはおいおい解明していくとしよう。
「ここにニーニャを連れてきた理由はとてもシンプルだ。簡単に言うと秘密の共有がしたかった。君には俺があのスーツに入ってるって一番重要な秘密を知られているから、どうか協力してほしい」
結局のところ本音を言えばこれに尽きる。
王都で暴れた白い戦士と、俺大門 大吉が同一人物だということを知る人間はできる限り少なくしたい。
頭を下げるとニーニャは妙に慌てて、ちょっと強めの思念で言った。
【……私も、貴方には秘密にしてほしいことはある】
「わかってるよ。アレの事だろう?」
「アレとはツレねぇ呼び方だねぇ」
彼女の体から出てきた黒い丸は出てきた瞬間ニーニャに平手で叩き潰された。
「……え?」
ビシャっと飛び散った液体が俺の顔に飛んできたが、液体が逆再生のようにニーニャの手元に戻って元の球体に復元するのは実に奇妙な光景だった。
「……潰すなお前! ビックリするだろ!」
【……黙って】
ニーニャに怒りの波動を直接たたきつけられた黒い塊はかつては魔王と呼ばれていた。今となっては見る影もないが。
すっかり委縮した球体を見て俺はため息を吐いた。
「……何回見ても奇妙な生き物だなぁ」
「うるせーよ」
そしてこの魔王と呼ばれていた謎の生命体こそが、俺が彼女を預かることになった原因である。
「それでマー坊」
「誰がマー坊だ」
「いや元魔王だしわかりやすいかなって。それでマー坊。どうにかして分離できないもんなの?」
とりあえずニーニャを操ることができないらしいが、そこのところどうなのか?
俺は魔王を摘み軽く引っ張ってみたが、いやいやとニーニャも首を振った。
【……たぶんできない】
『不可能です。すでに全身の細胞と融合していて寄生生物のみ破壊することはかないません』
「そうだぜ。俺様が宿主と完全に融合したら、どちらが死んでも体が崩れちまう。お前さんに核を砕かれて、もう他に移ることもできやしない」
三人そろって無理と断言してくるのなら、俺にいい案なんてあるわけがなかった。
マー坊はがトゲトゲの鉄球みたいになって涙目だが、他人を乗っ取ろうとして失敗した相手に同情する気にはなれない。
分離が無理でもニーニャに主導権があるのならいくらか気分はマシだった。
ひとまずやれるところまで隠しておくことにする。本当にやばくなったら、テレポーターでとんずらするとしよう。
方針を決め俺は深くため息を吐いた。
「まぁどうにかなるだろ……」
『なりますか?』
俺がため息交じりに言うと、テラさんは不安になるようなことを呟いた。
ならないと……すごく困るんだが。




