危険な魔法
「おお! ロボ! お前あの黒いのはがせるのか!」
「貴様何をした!」
ツクシが歓声を上げ、魔王が俺を警戒して見ている。
その視線を自分に向けられたことが妙にすがすがしい。
怒声と大声が俺に浴びせられ、俺は親指を立てて決め顔で頷くことで答えた。
いやいやこんなことやってる場合じゃない。
すると勇者ツクシはそれ以上深く尋ねることもなく、あっさりと叫んだ。
「ならロボが殴れな! ダメだったら僕がやる!」
このツクシ、何もわかっていないようで、いつだって要点だけは押さえていた。
意識せずとも最善を選ぶことも、勇者の資質なのかもしれない。
簡単に譲られてしまって、俺は驚いたが同時にこうも思った。
ああ、これは。やってやるしかなかろうよと。
一方魔王の方も俺を勇者のついでとは見てくれていないようだった。
「まぁいい……。何が出てきたところで結果は変わらん」
怒りを引っ込めて余裕を取り戻したそして掌に四つの光を灯して笑みを浮かべた。
「知っているか? 魔法は貴様らだけのものではないと」
光は赤、青、緑、茶色に見える。
嫌な予感がした俺がとっさに飛びのくのと、光がツクシに向かって放たれたのは同時だった。
すさまじい勢いでツクシに殺到する光の玉だったが、ツクシは避けることもせずに剣を振る。
弾かれそれた光はそれた先でそれぞれの効力を発揮した。
激しい爆発と、鉄砲水。
圧縮された空気の炸裂音と、隆起した岩の槍は、ツクシの背後を破壊する。
「当然の様に弾くよな……お前は。だがこれならどうだ?」
魔王がこれだけの威力の魔法を操っているのにも驚いたが、それだけでは終わらない。
今度は出現させた魔法の光を指先で一つにまとめ、ツクシを指し示す。
「……」
ツクシは確かにピクリと反応して、今度は飛んできた白い光を避けた。
光はまっすぐ直進し、背後に抜ける。
光の後には丸く削り取られた痕跡がくっきりと残っていた。
俺はテラさんに鋭く囁く。
「……今のはなんだ?」
『解析不能です』
テラさんすら即答を避ける謎の攻撃を見た瞬間、俺は全身に鳥肌が立った。
今までの魔法のような派手さはないが、今のが一番ヤバい。
そして、望む結果を得られた魔王は上機嫌でツクシに語る。
「避けたな? ネタばらしをしてやろう……この憑代はすべての属性の魔法を使いこなす。今のは全属性の魔力塊だ。あらゆる物質を消滅させる破壊魔法を前にしては、貴様でも避けざるをえまい?」
「……」
ツクシは未だ黙っている。
俺はごくりと喉を鳴らした。
俺は魔法の恐ろしさを誰よりも知っている。
一属性でもめちゃくちゃな力なのに全属性の魔力塊とは、またそそる単語を出してきた……ではなく恐ろしい。
なんという魔法だろうか? あんな魔法は見たことがない。
あのツクシをして、脅威を感じさせたというのなら、防ぐ方法はないと思った方がいいだろう。
俺はツクシを見やる。
顔を上げたツクシはおもむろに魔王を見上げ、心底不思議そうに言った。
「? 馬鹿だな。普通攻撃が当たらないように戦うだろ? 戦いだもの」
「……」
いや、ツクシさんそりゃそうなんですけれど、今はなんか違うと思うんですよね。




