リッキーに相談
俺は記念すべき瞬間を迎えたことで、計画を次の段階に進めることにした。
パワードスーツに動く目途が立った以上、ぐずぐずしている暇など一瞬たりともありはしない。
だからこそ俺は本日、テンション高めで知り合いの家に突撃した。
「大変だ、リッキー! 大事件だ!」
ノックとともにドアオープン。
鉱山街のとある工房の中では小柄な青年が目を丸くして固まっていた。
「な、なに? ……どうしたの?」
彼の名はリッキー。
ひげが生えていない眼鏡をかけたドワーフは俺より頭一つ分は小柄だが19歳で同い年だ。
茶色みがかったぼさぼさの髪と目のクリツとした少年のような容姿は人間基準でも幼い印象だが、ドワーフ基準だと、更に子供にみえるらしい。
だが彼を侮るドワーフは誰もいない。
鍛冶師期待の新星であるリッキーは非凡な才能を発揮している職人だった。
リッキーは仕事中だったらしく作業の手を止めてこちらを見ているので、まずは俺から話しかけた。
「何してんの?」
「え? フライパンの穴直してる……」
ニコッと笑いながら距離を詰める俺にリッキーはあからさまに警戒の色を濃くする。
これはまずいと思った俺は、一転して真剣な表情を作り、話に引き込んだ。
「実は君にお願いしたいことがあって来たんだ……君にしか頼めない」
「そ、そうなの?」
「そうなんだ……まさにドワーフオブドワーフな若き天才の君にしか頼めないのだよ。リッキーの腕はすでに名匠と呼ぶにふさわしい」
「褒めても何も出ないからね?」
「はは。まさかそんなこと期待しちゃいないさ」
ちらりと確認するとリッキーは、まるで俺の誉め言葉を額面通りには受け取ってくれていないようで、口元をへの字に曲げていた。
まぁそれはともかく俺は芝居がかった動きをよりオーバーにして本題に入った。
「ああリッキー! 聞いてくれ! 俺の夢がとうとう動き出したんだよ!」
「……ふーん」
「なんかリッキー冷めすぎじゃね?」
しかし反応がなさすぎるというのも寂しいものがある。
俺が文句を言うと返ってきたのはため息だった。
「いや……おめでとうと言ってもいいんだけど、なんだかよくわからなくって。大体、夢って何?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってないよ。それで改めてどうしたのさ?」
てっきりリッキーには何かの拍子に話しているとばかり思っていたが、それは俺の勘違いだったようだ。
俺はコホンと咳払いをして、表情を引き締めた。
「実はリッキー……すんごいことが先日起こったんだ」
「だから……なにそれ?」
「だからすんごいんことなんだよ……本当は秘密なんだけどね? 聞きたいよね?」
「えっと、忙しいから帰ってもらっていいかな? せめて休みの日とかにしてもらいたいんだけど」
作業に戻ろうとするリッキーを俺は慌てて止めた。
「勿体つけてごめんなさい。お願いだから話を聞いてください」
「……じゃあ手短に」
俺は念入りにきょろきょろと周囲を見回し、他に人の姿がない事を確認するとかくかくしかじか、説明した。
「―――というわけで、思ったよりうまくいって念願のパワードスーツが手に入るかもしれないんだよ」
俺の説明を受けたリッキーの反応は、予想はしていたが困惑だった。
「ええっと、そうだなぁ。まず……ぱわーどすーつってなんだろう?」
「そこだよリッキー! 俺の家でそいつを説明しよう! いいかい? 誰にも見られちゃいけないよ? 合言葉は必要かな?」
「いらないと思う。え? ホントなんでそんなにテンション高いの?」
「…………そうかー。うん。今日の晩御飯は俺がおごろう」
「あ、ホント? それは助かる! 今家にキャベツしかないんだ!」
万年金欠のリッキーは食事の話をしたとたん露骨にテンションが上がった。
「うーん……パワードスーツよりも話題の食いつきがいい。まぁ仕方ないか」
「そりゃあ今日君が来て唯一理解できる内容だもの。ああそれと、入ってくる時ノックと入る合間はもうちょっとあけてほしい」
「今後は気を付けます! では後で!」
不満がないわけではなかったが、リッキーの物言いは正論なので俺とて何か言う気はない。
苦言はともかく、話に乗ってくれるというのなら何よりだ。
俺は細かいことは流して笑顔で頷いた。
ちょこっと思っていたのと違ったがまぁよし。これで計画始動まで秒読みだ。
俺は我慢できずに思わずニヤけていた。