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変身と秘密兵器

「……これはまた。やってくれましたわね」


 ギリリと歯を食いしばりシャリオお嬢様は、憎々しげに黒いドームを睨みつける。


「……目的はツクシですよね?」


「そのようですわね……今の状況は復讐にはもってこいでしょう」


 闘技場の部分をすっぽり覆う黒い幕はさっきから貴族たちが強力な魔法をぶつけていたがびくともしなかった。


 どうやら魔法を弾く性質があるらしく、それは魔王が持つ特性と同じものだ。


 魔王には魔法が効かない。


 それが長年頭痛の種となっていた魔王の一番厄介な特性だった。


 だがそれだけでは終わらない。会場を覆った膜はビクビクと脈打って、今度は次々と悪魔のようなモンスターを生み出し始めていた。


「なんだ、こいつらは!」


 誰かが叫び、魔法を出てきたモンスターに浴びせかけるが、ぶつけられた炎は簡単に弾かれる。


 シャリオお嬢様は効かない魔法に思い切り舌打ちしていた。


「これは、本気で魔王を相手取るつもりで行かねば死にますわね。……ぼんやりしている場合ではありません。貴方、ここから今すぐ逃げなさい」


「えぇ!」


 シャリオお嬢様にそう言われ俺は声を上げたが、考えてみれば当たり前のことだった。


「貴方は一般人でしょう? 逃げなさい。もう貴方だけの様ですよ?」


 すでに闘技場に一般人らしき人間の姿はない。


 シャリオお嬢様は騎士だが、俺は戦闘力皆無の一般人だ。


 体をいくら鍛えていても、魔法をまともに使えない俺は足手まといでしかない。


 シャリオお嬢様は観客席から飛び降りる。


 これ以上お前にかまっている暇はないのだと態度で示すシャリオお嬢様は、槍を構えて目の前のモンスターの頭に突き刺すと、中から炎が噴き出した。


 くるくると華麗に槍を取りまわすシャリオお嬢様はやる気十分で戦場に向かって駆けてゆく。


「……ああ、そうだよな。この見送る感じ。いやなこと思い出した」


 取り残された俺は呟いた。


 脳裏に浮かぶのは勇者達と一緒にいたわずかな期間のことだ。


 圧倒的な勇者と、ただの荷物持ちでしかない自分。


 生き残ることにさえ精いっぱいで、碌に戦力になど成れない日々。


 地球の猛獣なんてかわいく見えるモンスターの前に出れば、俺なんてただの猿だった。


 俺は人目のつかないところに飛び込むと、腕輪を触り深呼吸を一度だけした。


 だが今は違う。


 俺はブレスレットを握り締め、祈るような気持ちで口を開いた。


「……俺はもうやれる。ツクシ、変身できるのがお前だけだと思うなよ」


 俺は拳を白くなるほど握りしめた。


「転送だ。テラさん」


『了解ですマスター』


 腕輪がカシャリと広がり、座標を捉えた俺のパワードスーツがこの場所にやってくる。


 全身に重みが増え、目の前にディスプレイの光が灯ったのを確認して、俺は始動する。


 ばさりと赤いマフラーを背中に流した俺は、金属に包まれた拳を打ち鳴らした。


「さぁ行くぞ! 相手にとって不足はない!」


『了解』


 シャリオお嬢様は、飛び出した俺を驚愕の表情で見ていた。


「え?」


 俺はまず暴れるシャリオお嬢様の背後から忍び寄っていた、真っ黒いモンスターに蹴りの一撃を叩き込む。


 吹き飛んだモンスターはすぐに体勢を立て直したが、一撃で終わらないのは織り込み済みだ。


「オオオオオ!」


 バシリと追撃の右拳から雷撃が走り、吹き飛んだモンスターは黒い霧となって消滅する。


 思った以上のクリティカルヒットに驚いたのは内緒である。


 さて非常時だったので、ご勘弁願いたいが、ひとまず一番の問題はシャリオお嬢様だろう。


 このお嬢様、俺に炎をぶつけたりしてこないだろうか?


 この間はプライドを傷つけてしまったかもしれないので、その節は申し訳ない。


 さぞや睨まれているかと思っていたが、どういうわけかシャリオお嬢様はものすごく慌てて、すさまじい勢いで燃え上がっていた槍と自分の髪の炎を必死に叩いて消していた。


「……」


 一体何をやっているんだろうこの人?


 なんとなく無言で見ていると彼女はものすごくらしくない弱々しい口調で、視線を合わせなかった。


「こここ、こんなところで会うとは奇遇ですわね! …………あの、危ないところをありがとうございます」


 最後がめっちゃ小声でよく聞こえなかった。


 だがこの非常時に炎を消しちゃダメなんじゃないだろうか?


 どうやら邪魔をしてしまったようなので、とりあえず親指だけ立てて見せ、急いでその場を後にした。


 枷を解き放たれたモンスターはウォーミングアップにちょうどいい。


 俺は目につくモンスターをかたっぱしから蹴散らしてゆく。


 拳も効果はあったが、電撃を食らわせれば黒い膜から出てきたモンスターは面白いように弾け飛んだ。


 俺の攻撃はしっかりと攻撃として成立している。となればこの力がどこまで通用するのか存分に試してくれるとしよう。


「あの中に入る方法は?」


 手短に尋ねるとテラさんは回答した。


『魔法以外であれば効果を期待できるようです。しかしこの障壁を突破するには相応の威力を必要とします』


「威力か……」


『そして都合の良いことに一つこの場に最適な武装に心当たりがあるのですが?』


「なるほど……アレだな?」


 奇遇なことに俺にも貫通力に優れた攻撃手段に心当たりがあった。


「よしテラさん。アレを使うぞ」


『了解しました。転送します』


「よろしく!」


 転送されてきたのは、ズシリと驚くほどに重量があった。


 鋭く巨大な杭と、それを打ち出す機構はシンプルである。蒸気王のテクノロジーを流用したこいつは、何かに穴を開けるにはおあつらえ向きだ。


『スチームバンカーです。高圧縮された蒸気で鋼鉄製の杭を打ちだします。使用方法の説明は必要ですか?』


「そこはニュアンスで!」


『了解』


 俺はスチームバンカーをバリアに向けて構える。


「ぃよいしょぉ!」


 気合を叩きつけるように、俺はトリガーを引いた。


 インパクトの瞬間、杭は勢いよく打ちだされる。


 生身なら腕がもぎ取られそうな衝撃の後、背後のスリットから熱い蒸気が吹き出した。


 白い蒸気の霧が霧散すると、杭はあっさりと黒いバリアを貫いていた。


『貫通を確認しました』


「おお、いったな。そんで……これでどうだ!」


 更に俺は杭に向かって電撃を放ち、バンと、雷光が迸った。


 すると空けた穴を中心に、黒い幕が大きく破壊される。


 完全崩壊とまではいかないが、俺一人通り抜けるくらいは十分すぎる通路は確保できた。


『すぐにふさがります。注意してください』


「飛び込むぞ!」


 慌てて飛び込み、侵入成功。


 俺は効果のほどを確認して頷いた。


「うん! すこぶる効果的だな!」


『設計通りです。ですが、ここからが本番の様です。注意してください』


「ああ……わかってる」


 だが喜んでばかりもいられない。


 俺は役目を終えたスチームバンカーを送り返し、気合を入れた。


 幕を抜けてきた俺を、中にいた二人が見ていたからだ。


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