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謎の魔物使い

『皆様……大変長らくお待たせいたしました! 只今より降臨祭メインイベント……勇者対魔物使いの模擬戦を執り行います! では勇者ツクシの入場です!』


 司会の声が魔法によって拡張され、会場全体に響き渡った。


 闘技場にファンファーレが鳴り響き、紙吹雪が散る。


 勇者がいよいよ入場となると、驚くほどの歓声が観客席から上がっていた。


「勇者ツクシが来たぞ!」


「きゃあああああ! ツクシ様!」


「かわいいぞツクシちゃん!」


「頑張れツクシちゃん!」


 拍手や黄色い声援が会場中から飛んでいる。


「応援ありがとな! 頑張るぞ!」


 ツクシの声が拡張され、手を振ると一層会場では歓声が爆発した。


「大人気ね」


「大人気ですね」


 まぁ、新撰組にいるなら治安維持でもツクシは大活躍だろう。そもそも竹を割ったような性格なので親しまれているのもよくわかる。


 ただシャリオお嬢様はツクシを目にすると、眉をひそめていた。


「というか本当にあれが勇者なのかしら? ただの子供ではないの?」


 彼女の視線は間違いなく手を振る勇者ツクシに向けられていて、俺は頷いて肯定した。


「あれが勇者ツクシですよ。本物を見たことはないんですか?」


 それはいくら何でもと思ったが、話を聞いて疑問は解けた。


「いえ……以前わたくしがお見かけした時は大人の女性だったのよ。偽物だったのかしら?」


 シャリオお嬢様は子供のツクシが本物なら、過去に見た大人は見栄えを気にした宣伝目的の偽物だと認識したようである。


 だがそれは違うのだ。


「ああ、それも多分ツクシですよ。どっちもツクシなんです」


「……どういうことかしら? 意味が分からないのだけれど」


 横目で睨んでくるシャリオお嬢様の目が鋭い。


 もっとわかりやすく説明しろということだろうが、こればかりは口で説明しても胡散臭くなること請け合いだった。


「と、とりあえず見てもらわないと。勇者の魔法はすごく説明しにくいんですよ」


「何か特殊なものなのね、彼女の魔法は」


「ええ。唯一無二です」


 この世界にある魔法は基本四属性であるが、ツクシの魔法は異色過ぎる。


「そう、それは楽しみね」


 お嬢様が一応納得した頃、ようやく勇者の相手が現れた。


『では続いて。魔物使い! 入場!』


 司会に促され、現れた男は一人の小柄な女の子を連れていた。


 二人ともフードをかぶっていたが、一瞬俺はその連れている女の子と目があった気がした。


 銀髪の奥の赤い瞳が、顔なんてまともにわからないほどの距離が離れていても、なぜかはっきりと見える。


 俺は時間が止まったようにかなり長い間、その瞳から目を離せないでいたと思ったが、それは一瞬のことだったようだ。


 魔物使いと紹介された男が観客に向けて挨拶を始め、俺はハッとした。


「皆様方! この度はこのような舞台で戦えることをうれしく思います! この魔物使い、勇者様の相手にふさわしいモンスターを用立ててまいりました! どうか最後までお楽しみくださいませ!」


 不健康そうな男の声が魔法で拡張されて会場中に響く。


「さぁこい! 我がしもべよ!」


 男の命令でツクシの対戦相手として出てきたものを見て、俺は驚いた。


 それが全身を鎖で拘束されたモンスターだったからだ。


 ゴリラのような体と獅子の顔を持ち、人間の五倍はでかい化け物だ。


 出し物にするならもう少しソフトなものを選べと言う感じである。


 あまりの絵面のえげつなさに観客は引き気味で、ざわざわと動揺した声が上がっていた。


 前もってシャリオお嬢様は知っていたのか、俺に魔物使いについて説明した。


「あれはあの男が飼いならしているモンスターですわ。あの魔物使いは降臨祭前に自分の力を売り込みに来たと聞いています」


「なんですかその怪しさ爆発な奴は?」


「さてね。モンスターを自在に操る術を持った男という以外は一切謎です。でも見ての通り能力に偽りはない」


「……大丈夫なんですか?」


「今のところは。でも信用はされていないのでしょう。そのためにわたくし達騎士団が招集されているのでしょうから」


「ああ、そういうことですか」


 ここにシャリオお嬢様が来たのは個人的な興味というだけではなかったようだ。


 会場を見渡せば、武装した貴族の顔ぶれが何人も見える。


 シャリオお嬢様自身もよく見るとちゃんと武器の槍を持参していて、やろうと思えば今すぐにでも戦える態勢だった。


「王族も困ったものです。魔王との戦いで確かに消耗はしていますが、力があれば何でもいいわけではないでしょうに」


 シャリオお嬢様の表情はうんざりとしていますと隠そうともしていない。


 この催しは勇者の力を知らしめると同時に、魔物使いという新たな力のお試しでもあるわけだ。


「派手で大胆な催しですね」


「まったくですわ。趣味の悪いこと」


 シャリオお嬢様が会場に目を落とすと、司会がちょうどそそくさと会場内から出ていくところだった。


 すかさずオーケストラは入場の音楽から戦闘用BGMへ切り替え会場を盛り上げた。


 まるで雰囲気はTVゲームのボス戦である。


 実際会場のテンションは最高潮に達しつつあった。


 だが俺は違和感に気が付く。


「どうしたんだ……?」


 どういうわけか肝心のツクシは魔物使いを変な顔をして見ていた。


 そして聖剣を直接魔物使いに向けると、心底不思議そうな顔で妙なことを言った。


「お前魔王だろ? なんで人間の格好してるんだ?」


 瞬間、会場は間違いなく凍り付いていた。


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