最後の切り札
シャリオお嬢様は俺との間に割り込み、魔法に挑む。
その背中に迷いはなく、俺はコックピットの中で息を飲んだ。
「全属性を一つにした破壊の光。ですがそれは完全なバランスがあって初めて成立する魔法です。一つでもバランスが崩れれば……」
俺が何かする間もなく、彼女の炎は猛烈な勢いで白い塊に叩き込まれた。
「一瞬で崩壊するもろい技でもある」
純白だった光の中に赤く激しい炎が生まれ、勢いを増してゆく。
シャリオお嬢様の鎧は徐々に弾け飛んでいたが、一歩も引かなかった。
「っ! このぉ!」
そしてついに吼えるシャリオお嬢様が魔力を込めて両腕を開くと、最強の魔法は彼女の言葉通りに崩壊した。
「……うぉ」
俺はこの時心の底から驚愕していた。
シャリオお嬢様から目を離せない。
もちろん彼女がすごい魔法使いだということはよく知っていた。
しかし初対面の印象からか、彼女は俺の中で守るべき対象だった。
だが気力を振り絞り戦ったシャリオお嬢様はまるで勇者の様で、ザワリと心がざわめくのを感じる。
崩れた魔法は破壊の余波をまき散らすが、シャリオお嬢様は満足気に微笑んで、落ちてくる。
やはり無傷では済まなかったらしく彼女の鎧はボロボロで、もはや戦えないだろう。
しかしシャリオお嬢様はタカコを指さし俺に叫んだ。
「……行って!」
「!」
開けたタカコへの道を前にして、俺は気が付けばビッグダイモンの体を起こして飛び出していた。
「……やるじゃないですか! でも無駄ですよ!」
タカコは叫び、無数に小さな魔法を展開して、ビッグダイモンを狙い打つ。
両腕をもがれ、装甲のほとんどを失ったビックダイモンなら、あの魔法でも十分壊せるだろう。
だが関係ない。
ビックダイモンは魔法の弾幕に向かって、フルパワーで加速した。
「わかってるよ。高価な変わり身だけど……くれてやるさ!」
「!」
「踏ん張りどころだ! ビッグダイモン(仮)!」
俺は装甲を開き、ビックダイモンを捨て、飛び出す。
「テラさん! 今だ!」
『了解』
ビッグダイモンは十分にタカコとの距離を詰めたその瞬間、大爆発を巻き起こした。
爆発の威力はすさまじく、飛んできた魔法も、タカコを守っていた装備もまとめて吹き飛ばす。
「!!!」
そして自爆したのはビッグダイモン本体だけじゃない。
タカコの巨大化したパワードスーツはその装甲の大部分を外側と内側の二つの爆発に吹き飛ばされて、タカコ自身がむき出しになっている。
取り込まれていたビッグダイモンの右腕は最高の成果を上げて、役目を終えていた。
「……自爆……装置」
「まぁ自爆装置はロマンだからな! 」
そして俺自身は爆炎にまぎれたその一瞬で、タカコを上から見下ろしていた。




