引き出しの中には思わぬ宝物が眠っている
大変遅くなりました。申し訳ない。
拳に鈍い衝撃が伝わって来る。
「ふんぬ!」
試しに続けて一発ぶんなぐってみたけど、バリアに弾かれるばかりでやっぱり効果は薄いらしい。
タカコの纏う守りの強度は、想定以上の性能だった。
俺の繰り出す拳の衝撃は地面に流れて、バリアごと周辺の舞台をへこませただけだ。
「……硬い。ダメージらしいダメージはなかったか」
背後から襲い掛かって来る光線を避け、いったん飛び退いておく。
回避に成功すると青い顔のタカコが俺を見ていることに気が付いた。
「もう! なんでそう簡単に避けるんですか! 守っているとわかったとたん、容赦がないですし!」
「いや、当り前だろ? ちょっとや、そっとじゃ壊せそうにないことはわかった」
プラプラと振った俺の拳にはまだしびれが残っていた。
まったく……実に素晴らしい。
これはいわばパワードスーツの新装備の見本市だ、優秀な防御手段こそお披露目してもらいたい。
バリアとか、いくら硬くても両手を叩いて大絶賛である。
だが戦闘の方は序盤も序盤の小手調べだ。
俺は奥歯を噛みしめ、ワクワクをかみ殺した。
「じゃあどうやって突破するかな! たたき割るのも一興だが!」
「バリアは割れるものじゃないでしょうに!」
「そんなのやってみるまで分からんさ。だけど……単調なのは今回の趣旨と違うな」
もっと色々とタカコの引き出しをさらしてもらわないと。
これから俺も失った勢いを挽回しなきゃならないのならなおさらである。
しかしどうもまだタカコのターンは終わっていなかった。
「……まぁその通りですね。じゃあこんなのはどうですか?」
「ん?」
タカコは手を振り上げて、腕の装甲の一部を頭上に飛ばす。
高く上がった装甲はパカンと四方に分かれて飛んで行った。
「んん? 今度はなんだ?」
俺はあえてワクワクしながら成り行きを見守っていると、いきなりその場で叩き潰された。
「……うぬぉ!」
声が喉から絞り出される。
小指の一本まで全身くまなく圧力をかけられているような感覚は、はっきり言って未知だった。
「体が重い……」
タカコが何かをやっているのは間違いない。だが何をしているのかわからない。
這いつくばった俺を見下ろすタカコは、してやったりと手のひらを握り締める。
「当然ですよ。今貴方の体重は何倍にもなっているんですから」
「……なんだって?」
「いわゆる重力制御ってやつです。ダイキチさんとの旅で手に入れた技術じゃないので知らなかったでしょう? 手に入れたのは3番目の世界くらいでしょうか?」
「……これが!」
俺は思わず食い気味の声を上げた。
何か出てきてほしいとは思っていたが、これまたときめく技術を隠し持っていた物だ。
様々なところでネタにされる重力制御なんて技術、いろんな意味で浪漫の一つに違いない。
「相手の動きが速いのなら、鈍らせればいいだけの話です。あとはじっくり焼き上げればおしまいです。降参しますか?」
得意げなタカコの言葉を俺はゆっくりと聞き終えて、震える拳を握り締めた。
「降参なんてするわけがないだろう? それにだ。残念なお知らせがある」
「……聞きましょう」
「重力制御ってのは俺の元居た世界では、パワーアップフラグなんだ」
「どういう理屈ですか!」
体の震えはもちろん感動だ。
全力で叫ぶタカコの声に愉快になって、俺は思わずにやけてしまう。
いやいやだって重力攻撃は最初の瞬殺を耐えれば、フラグを折ったも同然である。
そして耐えたら、こういうやつは正面から打ち破ってこそだろう。
「まずはっ……この無様な格好を何とかしよう」
無理やり俺は力を込めて手を突く。
メキメキと体から音がしたが、体は徐々に持ち上がった。
膝を立て、舞台がめり込むのにも構わず体を起こした。
全身がきしむが、問題ない。
普通に立ち上がった俺に、タカコは引き気味だった。
「うそぉ……」
「ああ、重力は切らなくていいぞ? いいトレーニングになる。……さぁ続きを始めよう」
完全に立ち上がった時、いつのまにか赤かった俺のマフラーが黒く染まり、高重力の中で炎のように揺らめいていた。
やる気は十分なようだし、次はこいつで行くとしよう。
マフラーを首からほどくと、俺の目には迸るドラゴンの呪いがしっかり見えた。




