なすり付けはよくない
「……わかるわけないでしょう!」
青筋を浮かべて叫んだタカコに、えぇーっと困り果てているイーグル。
二人の間には、そうにも理解を隔てる薄い壁があるらしい。
よせばいいのにイーグルはタカコに追い打ちをかけた。
「あーなんでかなぁ。だからダメなんだよタカコは。ちょっとはこのダイキチ君を見習いたまえよ」
「……はぁ?」
そしてなんかこっちに流れ弾が飛んできた。
おいと口出ししそうになったが、イーグルにだってこの立て込んだ話をどうにかしようとは思っているはず。
ここはぐっと堪えて、もう少しだけ成り行きを見も持ってみるとしよう。
「彼の作ったパワードスーツをタカコは見たことがあるかな? あれこそオレの理想そのものみたいなところだよ。どん欲にかつ望むままにやらなきゃ、ああはいかない」
そりゃあ、俺のパワードスーツは素晴らしいのだけれど、姉妹喧嘩のダシにつかわれたくはない。
煽り気味のイーグルのセリフに、タカコはまんまとつられていた。
「それは……何が言いたいんですか? ダイキチさんは姉さんのことを理解していると? 不可能じゃないんですかそれ?」
「そんなことはない。彼はよき理解者だとも。彼ほどオレに近い人間もそういないだろうね。タカコはアレだダイキチに比べるとだいぶんつまらない」
「……つまらない」
ピクリとタカコのこめかみが震えるのを俺は見た。
もうやめておけばいいのに、イーグルは煽るのをやめない。
「そもそもオレの後をついてきて何が楽しいのかな? って話だよ。世界を渡るなんてことを何の考えもなくやるなんて馬鹿げている。オレは自分でやりたいから、無茶だってしてるわけだけど、タカコはそうじゃないんだろ? それじゃあ何にもならないだろうし、成長なんかないんじゃない?」
「わ、私だって。成長してるよ! 異世界移動はお姉ちゃんに一言文句言いたくて来ただけだから
!」
タカコは顔を真っ赤にして怒りのあまり震えていた。
だがそんなタカコを関心なさそうに眺めたイーグルはため息で応えた。
「文句ねぇ……それは好きに言えばいいけど、なんだかなぁ。私の後追いじゃ、ちょっと君に興味が持てない。せめてダイキチ君を負かすくらい個性的に成長できてたら目を見張るんだけど」
そしてまた俺を槍玉に上げるイーグルさんだった。
ちょっとそこのイーグルさん、いい加減ししてほしい。
姉妹喧嘩はまぁいいとしても、その怒りの方向を俺に向けようとするのはいかがなものか?
正直俺、貴女の事いまいちわかんないからね? 謎の男装の麗人枠だから。
口を挟もうとした俺だったが、それを遮ったのは怒り心頭のタカコだった。
「……楽勝ですよ。それくらい」
「へぇ? それ本気で言ってる?」
「当り前です! 私がちょっと本気を出せば! ダイキチさんくらい楽勝ですよ!」
こういうのを売り言葉に買い言葉というのだろう。
涙目で宣言したタカコはギッとなぜか俺を睨みつけて、脱兎のごとく走って行ってしまった。
「……なるほど」
完全に口出しするタイミングを逸したな。
俺はタカコが走って出て行ってしまうのを見送る。
うん。本来であれば、完全に蚊帳の外だったはずだ。
聞いている限りでは、家庭内の俺が踏み入るべきではない話だ。
俺は追いかけることはなく、濃いめのエスプレッソを用意した。
黒くとろみのあるそれをコトリとイーグルに前に置くと、とにもかくにも俺は笑顔で言った。
「お待たせしました。鷲尾様」
「その名で呼ぶんじゃない。次言ったら性別が逆転する呪いをかける」
「おっかないなぁ」
本気でかけられそうなのがこのイーグルの厄介なところである。
その意味の分からない力のルーツを今の会話から少しだけ読み取ることもできた。
「―――ちなみに、どうして異世界を転々としたのか聞いても?」
それとなく俺が尋ねるとイーグルは苦笑した。
「縛られるのが嫌だったからさ。最低限研究ができる座標を選んで飛んでたってこともあるんだけど、割と簡単に元の世界と似たような状況に陥った。いや、簡単なんだ世界を渡ると。前の世界でかすめ取った知恵を次の世界に持っていけば、その世界に今までなかったものをすぐに提供できる。一から二にすることはできてもゼロから一にするのはやっぱり本来はある程度の偶然が必要だからさ。そして一度評価されるとかなりめんどくさい」
おどけていったイーグルは珍しく面白くなさそうにため息をついた。
「それと一番大きいのは、未知を探求して自分のものにしたかった。オレはよくわからないものに名前を付けるのが好きなのさ。でも厄介なことに、守りに入ってしまったら、その子たちは顔を隠してしまう恥ずかしがり屋だから、オレは自分で顔を見に行くのさ」
「なるほど」
様々な世界を旅して好奇心を満たしてくれるものを探し続けている人だったか。
そうして新しい力を満足いくまで堪能するとしがらみを嫌って次の世界へ。
その繰り返しが、姉妹の追いかけっこだったわけだ。
欲しいものは探してみないとないと見つからないというのは、俺の経験則から言ってもしっくりとくる。
納得して頷く俺を、イーグルは嬉しそうに眺めていた。
「君ならわかるだろう? 君のスーツを見てオレはピンと来たんだがね。ああこの人も同類だって」
「買い被りでしょうよ。俺は少なくとも天才じゃない」
「いやいや、頭の良し悪しの話じゃないさ。考え方とか主義の話でね。ここに流れ着く人間はとてもいいよ。何というか、性に合ってる」
そこまで言って満足したのかイーグルはエスプレッソを砂糖も入れずに一気に煽る。
そして顔をわずかに潜めた。
「ああ苦い。今日のは一段と苦く感じるな」
「……まぁそれは別にいいんだが」
うんと深く頷く俺はそんなイーグルに真顔で言った。
「なんで俺、今の喧嘩に巻き込まれたんだ?」
「いや……ノリ?」
「おい」
こいつはどうにもどう転んでも姉妹が仲直りは出来ないだろうなと、俺は漠然とそう思った。




