突入
基地に自爆装置をつける。
それが一種の浪漫であるとは俺も理解できる。
「だが、実際やっちまうのはすごいよな」
「そうか? 元の世界でも割とやっとったよ?」
とはドクターダイスの言だった。
「いや、若気の至りでやっちまったとしても二回目は後悔してやらない感じのやつじゃないか?」
「足がつかないようにするには中々便利なんじゃて」
ドクターダイスは当然のように言ってのけるが、決して一般論ではないと思う。
しかし今この場で都合がよかったことは間違いない。
俺はぐっと常識は飲み込んで、非常識を肯定することにした。
「テラさん、まだタカコが生きてるって確認できるか?」
『生存、現在位置ともに確認しています』
さすがテラさん。そつがない。
だが、あのサンプルXが地下の研究所を蹂躙しているのは、バキバキ割れる島の地割れから見ても明らかだった。
地下にいていつまでも生きていられる状況でもないだろう。
「助け出せればだいたい解決するが……あいつが素直に助け出すまで待ってくれるとも思えないんだよな」
サンプルXは着々と質量を増大させながら未だに上空に逃れた俺達に狙いを定めていた。
妙に考えこんでしまっていた俺に、俺を抱えて飛んでいたニーニャは思念を送って来た。
【まかせて。私が注意を引き付けるから】
「……きついぞたぶん」
その思念はやる気満々で、ついそう尋ねてしまうと、俺を抱える手に力がこもる。
【大丈夫。それに正義の味方はためらわない】
そう言って俺の顔を覗き込んでくるニーニャに俺は目を丸くして、覚悟を決めた。
「それは……よし、わかったやるか」
「あの中に飛び込むのか? さすがにお前さんでも食われるんじゃないか?」
ドクターダイスは面白そう尋ねてくるが、俺は鼻で笑い飛ばした。
「中に入らなきゃ、なんも始まらないだろう? スパッと助けてそれで終わりだ」
「わし、危なくなったらさっさと自爆させたいんじゃけど?」
ドクターダイスは冗談のような口調だったが、それがけして冗談でないと俺は察した。
こいつは本当に身が危なくなったら研究所を爆発させて逃げるだろう。
そしてその爆発は、ここにある研究と怪獣を痕跡残らず消し去れるものだとするとその威力は相当にやばそうである。
「そいつは困るな。だけどそれでも頑丈さには自信がある。何としても生き延びて見せるさ」
俺とドクターダイスは視線をかわしニヤリと笑う。
「いいじゃろう。いかれたアイディアにはとことん付き合うのがマッドサイエンティストの心意気ってもんじゃろ」
「ああ、諸悪の根源なんだ、軽くもたせてくれよ。じゃあ俺がタカコを助けに行く間、出来るだけ二人ともあいつの注意を引き付けておいてくれ」
ニーニャとドクターダイスは頷き、俺も準備を始めた。
「じゃあテラさん。ナビ頼む」
『了解しました。では地下施設のマップを表示します、サンプルXの攻撃にご注意ください』
「ニーニャ! 放せ!」
俺の叫びに応えて、ニーニャは手を放す。
落下しながら目指すサンプルXの根元は、牙の生えた巨大なミミズが地面から生えてひしめいていた。
「よっしゃ行くぞ!」
そして射程に入れば当然サンプルXは襲い掛かって来る。
俺は落下しながら両腕にエネルギーを溜めていたが、後ろから光弾が飛んできて、弾けると風の刃が巨大ミミズをバラバラにして俺達の道を開いた。
俺はちらりと上空を見ると、ニーニャがグッと拳を掲げていた。
手数も限られてるってのに無茶しやがって。
俺はその心意気にこたえるために、ニーニャの魔法が開けた穴に落ちていった。




