動き出す島
俺は炎の中に飛び込んで戦うニーニャの姿を追う。
ニーニャは体を悪魔のような形状の姿になり、果敢にXに挑みかかっていた。
ニーニャの体から伸びる無数の触手は、Xの体を傷つけていたが効果があるようには見えない。
ざっくりと切裂けたとしても、瞬きする間に傷がふさがってゆく。
「アレはすり抜けてるのか?」
そうテラさんに尋ねるが答えは否だった。
『ダメージはあるようですがふぐにふさがっているようです、回復の速度が尋常ではありません』
その上サンプルXはどんどん大きくなってゆくのがはた目から見るとよくわかった。
「な、なんだ!」
そして大きな生物の歩き回る音がそこら中から響き、島中からどんどん怪獣達が集まってきていた。
「おいおい! 何で集まって来る! 冗談じゃないぞ!」
ためらいもせずに炎の中に突っ込んでくるそいつらを何匹かは殴り飛ばしたが、降って湧いた怪獣総進撃はとても止められるものじゃない。
何かに引き付けられるように進む怪獣達はどういう理屈か、サンプルXの方へと突っ込んでいった。
「うぇ!」
俺はその光景を見て悲鳴を上げた。
突っ込んでいった怪獣達は、粘土のようにくっついてXと融合していたのだ。
そうして形を変えた怪獣達が、炎の中で大きな手を形成しているのを見つけて、俺はニーニャに向かって飛んでいた。
空中の足場を巧みに使い、両者の触手の網をかいくぐり、ニーニャの腰にがっつりタックル。
「あぶない!」
【!】
すんでのところで炎の中から飛び出してきた巨大な腕に掴み取られる前に、ニーニャの救出に成功した。
【ダイキチ!】
「元気そうで何よりだ。またすごいの相手してるな」
ニーニャの黒い疑似尻尾はブンブン横に揺れていて、ケガもない。
毎度のことではあったが、今回もまぁリスクが高い場所に呼び出してしまったものだった。
サンプルXはとんでもなく膨れ上がった肉の塊から、上半身だけ突き出た状態で現れた俺を見て、表情を一切動かさずに口を開いた。
「また現れたか。すべて我が糧としてやろう。頭を垂れて感謝を示せ。生命は唯一一つでよい」
「なんか神様っぽいこと言い始めたぞ」
あまりにも冷たい口調でぞっとする。
そして口にする内容は意味不明だ。
ニーニャはしかし緊迫した思念を俺にぶつけてきた。
【だけどとても強い。魔法も安易に使ったらすぐに効かなくなる】
そしてニーニャの体を包んでいるマー坊もまた緊張していて声色が強張っていた。
「そうだ。あそこまで完成に近づいたら、対応は一瞬だ。初撃で決めなきゃ手に負えなくなるぞ」
ニーニャとマー坊が口をそろえて早口なのは、危険性をすでに十分理解しているらしい。
グニャグニャと形を変えているサンプルXはもうすでに相当な大きさになっていて、下半身が植物が根を張るように地面から生えていた。
「なんだあの根っこ?」
さっきまではあんなものなかった気がするのだが、きちんと意味はあるようだ。
それに一番に気が付いたのはマー坊だった。
「……地下にも怪獣がやたらいたから全部喰ってやがるんだ」
「おいおいおい、そりゃまずいだろう」
マー坊の推測はドクターダイスとさっきまで一緒にいた俺にはすぐに頭に映像が浮かんだ。
地下秘密基地は男のロマン。好き勝手に改造されたこの島の内部は実に面白そうである。
しかし、そのすべてを一度に吸収する謎の生物が存在するとなると一気にバイオレンスな世界に早変わりだ。
俺は地面を見る。
ああ、おぞましい光景が地面に隠れて見えないのは、幸運か不幸か判断の難しいところだった。
「さすがにそいつは……もう手に負えなくないか?」
海にいる怪獣だけでも、1匹でバカみたいな大きさだったはずだ。
そこまで吸収し始めたらどうなるのか?
おそらくは事情を知る全員の想像通りに ドクンと島が動いた。




