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Xはこちらを見ている。

 Xの不可視の力で砕け散るカプセルの破片と液体が派手にぶちまけられて、床に散らばる。


 中にいたサンプルXは、バッチリ目を開いてカプセルから出ていて、動揺したキョウジは慌てて叫んだ。


「ま、まだ動くな!」


 サンプルXの中に打ち込まれているナノマシンは健在で、言葉の効果はすぐに現れた。


 その体は、スイッチが切れた人形のように動かなくなる。


「よ、よし……まだ制御は効いて―――」


 だがキョウジの喜びの声が響いた瞬間、サンプルXの右腕が動き、自分の頭切り落とした。


「―――は?」


 キョウジの目には宙を舞うサンプルXの頭がはっきりと映り、落ちた頭が塵となって消えた直後、すぐさまサンプルXの本体から頭は再生する。


「えぇ!?」


 タカコは驚愕した。


 首には傷跡すら見当たらなかった。


 新しく生えて来た頭は、前までの人形のような表情はすでにない。


 サンプルXは白目を赤く血走らせ、狂ったように笑い始めた。


「ハハハハハハハハハハ!」


 少なくともタカコとキョウジはビビりまくりだ。


 他を威圧する笑い声の中で、キョウジは手なんかかざしながら頑張っていたが、完全に涙目である。


「うぃぃ! 一体何が!」


「何がって、貴方のナノマシンを頭ごと切り離したんですよ!」


「そんなバカな!?」


「馬鹿だと思いますけど、出来るなら確実でしょ!」


 タカコはほんの一瞬制御が戻った瞬間に行われた、行動に戦慄した。


 ナノマシンは何かを操る時、脳から干渉するとタカコはよく知っている。


 頭丸ごともぎ取れば、ナノマシンの大部分を排除できることだろう。


 だが即断即決で出来るかどうかは別問題だ。


 それをあの生物はやってのけた。


 そこに死の恐怖はなく、そうすれば支配から抜け出せるという確信が見える。


「なんて力技。思いついても普通やりませんよね? 痛くないんでしょうか?」


「そんなこと言てる場合じゃない! アレはめちゃくちゃなんだ!」


 普通の人間ならまず死ぬようなことでも、あの生き物にしてみればそうではないらしい。


 再生速度は尋常ではなく、手傷を負わせたくらいで倒せないのは簡単に予想できた。


 タカコはどうにかやり過ごす方法を一生懸命考えていた。


「い、いや。頭を破壊したら解放されると即時に判断した当たり、かなり知能は高いです! ここは一つ……操っていた馬鹿野郎をいけにえに差し出せば、案外穏便に済むのでは?」


「はぁ!? そういうことを言いますか! 血も涙もない!」


「そこんところどうですかね!」


 絶賛混乱中でガクガク肩をゆするキョウジは完全に無視して、タカコが意見を求めたのは、あの生物の事を知っているらしいニーニャだった。


 だがニーニャの体から出た黒い奴は、大きな目を細めて押し黙る。


 そしてニーニャは首を横に振った。


『そんな考えは捨てるべき……あの生き物は邪悪』


「邪悪って……最近あんまり聞かないですけど……そんなことあります?」


 タカコはゴクリと喉を鳴らした。


 そこは生物で知能まであるのなら、多少なりコミュニケーションの和を大切にしてほしいものなのだが、何時しかあれだけ響き渡っていた笑い声は収まっていた。


「あ、あれ?」


 タカコはゆっくりと振り向き、サンプルXを見る。


 元のように無表情に戻っていたサンプルXは一言言葉を発した。


「……なぜ命がまだいるのか。すべて食い殺したはずだ」


「「邪悪だ!?」」


 タカコとキョウジの声は見事に揃う。


 なんかこう、サンプルXの目は、ここにいる全員を虫けらを見るように見ていた。


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