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買い物

 さて思いのほか大騒ぎになってしまったわけだが、気を取り直して俺は市場に向かうことにした。


 やはり都会では市場にも辺境とは違う活気があって、何を買うにも手に入れやすい。


 果物、野菜、肉各種、調味料の幅も、鉱山とは大違いだった。


「とりあえず食料くらいは確保しておこうかな」


 そんな軽い思い付きでも、いざ買い物に行ってみるとついつい買い過ぎてしまうもので、特に食料は大量に買い込んでしまった。


 近いうちによく食うやつらが訪問する可能性もあるから、手元に食料は多いに越したことはない。


「っていくら何でも買いすぎたか……」


 持ち上げるとずしっと感じる重さは、中々に堪えた。


 そんな折、俺は市場の一角で怪しげな屋台を見つけた。


 変な物が所狭しと並べられている屋台には何に使うかもよくわからないものが沢山並べられている。


 俺が近づくと露天の兄ちゃんは人懐っこい笑みを浮かべて、話しかけてきた。


「兄ちゃん見ていくかい? ここいらの人じゃないんだろう? お土産には最高だよ!」


「ああ。今日王都に来たばかりでね。王都には変わったものが売ってるんだなぁ。これは何だい?」


「ここだけの話だがな……聞いて驚くな? ここにあるのは、なんとあの勇者様がやって来たっていう異世界の物なんだ。誰にも言うなよ?」


「へー。あの勇者様の! 降臨祭のお土産にはピッタリだな!」


「そうだろう? どうだいおひとつ?」


 ザッと確認してみると、俺達の世界の物とは断言出来なかったが、電化製品が多そうだということだけ確認できた。


 これならテラさんといじれば動く物もありそうである。


「いいね。でもちょっと高くないかこれ? もう少し安かったらうれしいんだが……まとめて買ったら安くなるかい?」


「うーんそうだなぁ。貴重なものだが……よし分かった! まとめて買ってくれるなら3割引きで売ってやるよ?」


「わかった。じゃああの辺のやつをまとめて、これと、それももらおうかな?」


「おお、ずいぶん買い込むね兄さん」


「ああ、故郷のやつらに配ってやろうと思うんだよ」


「そうか! よしわかった! 売った!」


 露天の兄ちゃんは快くすべての品物を売ってくれた。


 その顔はしてやったりという表情が隠しきれていない。


 それもそのはず、ここにあるのは一般的にはただのガラクタだからだ。


 空から降ってきた異世界の何かでは動かせもしない。


 せいぜい買っていくのは他所から来た珍しもの好きくらいだろう。




 戦利品を荷物に加え、ついでに屋台で買ってきた鳥の串焼きをかじりつつ、俺は適当に座れるところを探して今のところガラクタを眺めた。


「さて一応それらしいことをやってみたが……正直売れるのかは微妙なんだよなぁ……」


 ぼんやりと呟いたのは俺の本音である。


 電化製品を使えれば確かに便利だろうが、こちらにはこちらで魔法を使った便利なアイテムは既にあったりする。


 それが魔道具である。


 魔道具は鉱山などで発掘される魔石を使い、魔法をコピーすることによって劣化版の魔法装置として機能する。


 つまり火の魔法使いが作った魔道具を使えばコンロと同じというわけだ。


 武器になるような威力を期待しなければ日用品レベルの魔道具は多く、それこそ一般家庭にたまに置いてあるくらいには王都では常識的だった。


 電化製品と客層が丸かぶりだ。


 いや、こちらの世界ではむしろ利便性において圧倒的に魔道具が勝るだろう。異世界には異世界の文明があるというわけである。


「……せめて同じかそれ以上に便利にしないときつい。量産もできないしなぁ。目新しさで勝負するしかないだろ? まぁこの辺は課題だなぁ」


 とりあえず一人じゃしんどいので後でテラさんに相談である。


 降臨祭は明日だ。


 バタバタしているうちには当日だろうから俺としてはあまり急ぐ気にもならなかった。


「王都に来てから日も浅い、もう少し落ち着いてからだな」


 俺はひとまずそう結論して立ち上がった。


 久しぶりの王都だ、少しはゆっくり見て回りたい。


 俺はあまり自覚してはいなかったが、祭りの空気に少しばかり浮かれていたようだ。


 だがこういう浮かれた時、俺はだいたい何かやらかす。


「!」


 それを思い出すのは大抵やらかした後だったりする。


 柔らかい感触にぶつかった俺はやらかしたのだとすぐに悟った。


「あっ!」


『……!』


 弾かれた相手は俺より頭一つ分ほど小柄だった。


 まず目に飛び込んできたのは褐色の肌と銀色の髪である。そしてずいぶんと長い耳。


 俺はほとんど無意識に手を伸ばして、少女の腕を掴んでいた。


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