見つけた日記
洞窟内から侵入したら人工物の内部だった。
ニーニャの魔法によって絶命していた怪獣は、番犬のようなものだったらしい。
外皮を金属で覆われたその姿にタカコは少しだけ見覚えがあった。
「あれ? こういうのどこかで見覚えがあるような? ……気のせいですかね?」
ビクつきつつ奥へと進むにつれ、その建物が研究施設であることがタカコには理解できてきた。
冷たい空気と、薬品らしい臭いがする。
薄暗く不気味な通路に並ぶ円柱型の培養槽には見覚えのある生物が浮かんでいて、小型だが、今まで襲いかかって来た怪獣達に共通した特徴がみえる。
ファイルなどを入れた棚のある部屋を発見したタカコは、ニーニャに入り口で見張りをしてもらい、中を探索した。
「外の怪獣は、ここの持ち主が作り出したもので間違いなさそうですね。それにしてもめちゃくちゃするものです」
とは言いつつもタカコは注意深く周囲を見て回って、日記を発見した。
「これは……何か手掛かりになるかも」
タカコはこの恐ろしい施設の謎を解くべく日記を開く。
内容はこんな感じである。
研究所を新築し、前回発見したサンプルを培養することに成功。
捕らえた生物に移植し増やすことを試みる。
まずは地盤を固めねば。
「よくわかりませんが……このメモの人が研究所を作った? どこかから転移したのではなく?」
だとすれば興味深い。
一体どんな技術を使えば、文明の気配のないこんな場所でこれほどの研究所を作ることができるのだろうか?
もしそれが自分にも可能なら、有益であることは間違いなかった。
タカコはもっと他にはないかとページをめくる。
続く内容はこんな感じである。
戦力は整いつつあるが、おなかが減って仕方がない。
虫とか魚とかはちょっと捕まえるのが大変だ。
わしに狩りの才能とか全然ないらしい。
……肉とか作ってみるのはどうだろう? メタル化はやめてでっかくしてみよう。
でっかいことはいいことである。
異世界から来た謎の生き物を拾った。透明の鉱物の中に封入されていたので出してみるとしよう。
「お、おやおや? なんだか、雲行きが怪しくなってません?」
ちょっと気の抜けるような内容が混じるのはお茶目だろうか? そう願いたいが地っぽいのがなんか嫌だ。
タカコはちょっと尊敬してきていたのになと思いながらも、まぁ空腹はきついかとページをめくる。
巨大化の研究は、最近発見したどこからか流れて来た異世界の生命体を使うことで飛躍的に進んだ。
ビックリするほど急成長を遂げる作品達に、わしも毎日メシがうまい。
名前はシービーフXでどうだろう? 魚と肉の中間のような感じになると予想している。
でもちょっと気持ち悪くて虫と魚ばっかり食べてる。研究は進んでもどうやら心の準備の方が間に合わなかったようである。
*知り合いが海岸に漂着しているのを発見して助けてやった。
何か実験に付き合ってもらおう。
「食料の確保には失敗したみたいですね……私は虫は無理ですねー」
うーんやってることはすごそうなのに、そこはかとなく残念臭が漂う。
天才とバカは紙一重というやつなのだろうか?
それでも書いてある内容は、危機感を持つべき内容が多い。
タカコは読み方が雑になっているのを感じながらページをめくった。
拾ったあいつは実験に協力はせずに、研究所を拠点にあちこち出て回るようになる。
イラっとしたが、好都合ではあった。
こちらもこちらで問題はあり、なんだか手が付けられないくらいにシービーフ達が巨大化してしまってちょっと家で飼うのは難しいので海に放流した。大きくなれよって思った。
そういえば、拾った謎の生命体の封印ももうすぐ解けそうでなにより。
自分の頭脳が怖い。順調すぎて笑いが止まらない。
研究所といえば意味ありげな日記がつきものなのでとりあえず研究所を作ったら日記を書くことにしているが、もう飽きてきたし必要ないかも?
そろそろ謎の生命体の封印解除も秒読みだ。
おや? 誰か来たようだ。
ここで日記は途切れている。
タカコはスーっと鼻から空気を吸い込んで一拍置くと、呟いた。
「なんなんですかね? この人。適当にやばいもん作りすぎでは?」
やるならやるでそれなりに信念やら目的やらを持っていてほしいものだった。
「まったく……これだから天才ってやつは」
タカコはなんだか無性に腹が立ってきたので、日記を適当に放り投げた。




