ドクターはいつもピンチ
「しかし、こんな海で海水浴とは物好きな。命知らずなやっちゃなぁ」
飄々としているドクターダイスは相変わらず何を考えているのかわからない。
俺はマフラーに引っかかっていた釣り針を素早く取り除いて宙づり状態から抜け出した。
「だけど助かった。海にいる怪獣は洒落にならないぞあれ?」
「そうじゃろうとも。出てくるやつにも入ってくるやつにも容赦せんからなぁ。しかもめちゃくちゃ強いぞ」
俺が怪獣について話を振ると、案の定その反応は嬉々としたものである。
自分の作ったものを自慢する雰囲気はどうにも隠し切れていないドクターダイスに、俺は内心ため息をついた。
「で? あんたは何でこんなところに? また実験でもしてたのか?」
「当然じゃろ? 実験こそが我が人生じゃて。マッドサイエンティストの心意気じゃろ」
その心意気が十分に発揮されて大量の巨大怪獣を量産されるならいやな心意気もあったもんだ。
というか確実にここで何かやってなければアロハで釣り糸を垂らしているわけがなかった。
「それでここでも……興味深い実験対象を見つけたわけだ」
「みつけたみつけた! いやこの世界は面白いぞー。三歩歩けば面白いもんが転がっておる」
よし命の恩人認定は完全に解除したが、俺は今は怒りを引っ込める。
この島を知っているというのなら、ダイスの助けがあれば助かるのは間違いない。特にニーニャとタカコの救出は最重要課題だった。
「そうか……。じゃあ少し協力してくれないか? 実は島にたどり着いた時、連れとはぐれたんだ。どうにか合流したいんだよ」
ドクターダイスとは最後の関係は味方だったわけで、そう敵対もしていないと思うのだが、ドクターダイスは難しい顔で唸っていた。
「ふーむ……ちょっとそれは難しいのぅ」
「なんでだ? あんたの島なんだろう?」
ドクターダイスはかなり後先考えないのが玉に瑕だが、それでも優秀な科学者だ。
あの怪獣達を撃退とは言わないまでも避ける方法位くらいどうにかしてそうなものだが、ドクターダイスの態度は歯切れが悪い。
「ど、どうした? 何かあったのか?」
「まぁトラブルと言えばトラブルなんじゃけどなー……」
俺はためらいがちに尋ねる。
するとやはりドクターダイスは、自分で満足するまで唸った後、開き直ってぶっちゃけた。
「いやー。現在絶賛研究室乗っ取られ中なんじゃよな!」
「……何であんた毎度毎度窮地なんだよ! 自分の研究成果位しっかり管理しとけよ!」
「今回のお前さんには言われたくないわい!」
そりゃそうだ、釣り竿で釣られて助けられるという失態をやらかした手前、俺は言葉につまった。




