海の向こうの島
「……何とか逃げおおせたわけだが、あんなにめちゃくちゃ出てくるとは思わなかった」
戦えないということはないだろうが、アレ全部襲ってくるとか勘弁してほしい。
俺はため息を吐くが、しかしタカコは言いづらそうに手を上げた。
「なんだね?」
「いやー……でもですね。やっぱり海岸を進んだ感じ、異世界人がいるとしたら、この海を越えないとダメっぽいんですよね」
タカコの指さす方向は、やはりあの海の向こうだった。
「んー……そうか」
やはり。そう言う感じか。
それはどうなのだろう? さすがに食われるのではなかろうか?
波の音も聞こえない不思議な海をちょっと眺めて、俺はよしと気合を入れる。
「パワードスーツってさ。胃袋の中でどれくらい動けるかな?」
「……食べられる前提なのやめましょうよ。食べられない方法を考えましょう」
「行く気……なんだな?」
「まぁ出来れば……あの先には島があるっぽいんですがみえますかね?」
「ああ確かに。遠くに見えるな島」
手のひらで太陽光を遮りながら目を凝らすと、俺にも霞の向こうにうっすらと島の影が確認できた。
「人が近づけない天然の要塞なんてもの好きがいそうなシチュエーションがいかにもじゃないですか」
「自分の姉ちゃんの評価もの好きなのか……」
ちょっと疑問に思ったが、タカコの指摘の俺は唸った。
俺とて未知の技術があるなら欲しいところだ。
しらみつぶしに当たっているんだから、気にかかるところを見逃す意味はない。
「なるほどなー。狙って住んでるならなにかあるかもしれない。ニーニャはどう思う?」
今度はニーニャに振ってみるとニーニャは言った。
【よくわからない。あの島に人がいるの?】
「たぶんね」
人っぽい何かかもしれないけど。
前はスライムだったわけだし、人の定義は曖昧である。
【偶然たどり着いていたら、困っているかもしれない】
だが続くニーニャの言葉に俺はなるほどと頷いた。
異世界からやって来た者は出てくる場所を自分では選べない。
なら危険地帯がスタート地点なら、途方に暮れている可能性は十分あった。
「なら、行ってみるしかないな」
ヒーロー的には困っている人を助けるのはジャスティスだ。
動機が一つ加わるだけで、重い腰はわずかばかり軽くなった。
【いくの?】
「……まぁ、そこに何かがあると言うなら」
何はともあれ超えてみない事には何もわからない。
最初からなかなかハードだが、引き下がる理由が俺達にはなかった。




