呪いの装備の有用性
俺、大門 大吉は久しぶりに帰った秘密基地にてほくそ笑んでいた。
シャリオお嬢様をてんやわんやの騎士団に任せ、マリアンをもとい、マリーお嬢様とフォックスを王都に届けて一仕事終えたこともあるが、それ以上に今回の戦闘が満足いくものだったことが大きい。
「クックックック……素晴らしい。素晴らしいぞ!」
ただし今回はこっそりと一人薄暗くした地下秘密基地にてほくそ笑んでいた。
正直自慢したい気持ちもなくはなかった、だがさすがに今回は大手を振って人に見せることは出来そうにない。
なぜならば、今回キーとなった力はどう考えても心配されそうだったからである。
「呪術……呪いの力か今まで意識してはいなかったが……ありだな!」
『ヒーローを目指すと言いながら言っていいセリフなのでしょうか?』
唐突なテラさんの疑問提起は中々難問だが俺の答えはこうである。
「ギリギリ……OK」
『曖昧な定義です』
「いやそもそもダメだとしても、はがせもしないんだからうまくやっていくしかないんじゃないか? ちょっと悪役っぽいけど」
名前がちょっと恐ろしげでも、役に立つのは疑いない。
攻撃力が強力な呪いの装備みたいなもんだと割り切れば許容範囲内である。
『そうですね。そもそも初期から呪われていたはずです、今更の話でした。今回の戦闘を有利に運べたのは、その呪いによるところが大きかったと考えられます。呪い特攻ともいうべきでしょう。残念ながら、パワードスーツに搭載されている武装では効果的なダメージを与えられませんでした。あのようにつかみどころのない相手では、仕方がないとしてもです』
「……ひょっとして機嫌悪いテラさん?」
『そのような事実は一切ありません』
心なしか不機嫌そうなテラさんの言葉には若干のトゲがあるが、俺も考えないではなかった。
呪い特攻とはまた、尖った効果である。
だがこの先強力な武器になるかもしれない可能性は見過ごすわけにはいかない。
「特になんか自分でも操れそうな特別感は捨てがたいな。どうにかして鍛えられないものか?」
『厳密に言えば、呪われているのはパワードドスーツとマフラーでマスター本人がどれだけ干渉できるかは不明瞭です。呪術師という特殊技能もあるようですし』
「……そうかな? 無関係ではないと思うのだけれど?」
『マスターの話では意思のようなものが存在するのですよね? 交渉してはいかがですか?』
「なんか納得できるけど、交渉ってのもなんだかなぁ」
この先話せるかどうかもわからないのがネックだが、機会があれば試みるとしよう。
うーむと深く唸る俺にテラさんは忠告する。
『しかし……マスター。今回の相手を見ればわかるかと思いますが、呪いというのは真っ当な力ではないように思います。くれぐれも慎重に活用してください』
「ああ、まぁ呪いだしな」
テラさんの言う通り、呪いというやつは舐めてかかれる代物でないことは、俺も理解している。
確かにあの犬頭の神官が呪術を極めた果ての姿というのなら、後々命に係わる事態になる可能性は大きい。
「またある日突然、闇の中に引きずりこまれたりしたらゾッとするよな!」
『気軽に言うことではありません』
あえて明るく口に出し、テラさんに嗜められて俺はふと視線を逸らす。
するとそこには赤い目がギラリと光っていて、ぞっと全身に寒気が走った。