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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
犬神の呪い編
403/462

異世界人の瞳に炎は揺らめく

「■■■■―――」


 意味の分からない呪文を口ずさんでいた犬頭は崩れてゆく。


「――――――これで終われる」


 呪文を口ずさんでいた口は最後にそう呟いて、崩れた体は煤のようになって空に崩れて消えていった。


「……ふぅ」


 ばらばらと崩れてゆく真っ黒な空間を見るに、鏡が本体という狙いは当たったらしい。


 無限に湧き出て来た化け犬達はどろりと溶け落ちていたが、どういうわけか溶け落ちた黒い泥は俺に集まってきて、俺の影の中に溶けるように消えてしまった。


 気味が悪いが、もう空は青い。


 俺達はようやく解放されたみたいで、今はそれを喜んだ。


「一時はどうなるかと思ったが、案外どうにかなったな。しかし呪術ってのは面白いことができるもんだ」


『面白いことで済むようなことではなかったと思いますが、戦闘面でかなり強力な技能であることは間違いないようです。それにどうやらマスターはすでに呪術を使いこなしています』


「ホントに? 俺って才能ある?」


『才能があるかどうかは不明です』


「……そうかー」


『ですが呪いというのは相性があるのだとか。きっとマスターと呪いの相性はとても良いと言うことなのでしょう』


「……フォローなのかもしれないが、なんだろう……字面が悪いなぁ」


 いやまぁ呪いの才能があるとか言われても微妙な気分ではあるんだがね。


 そもそも俺には呪いとやらを使いこなしているという自覚はあまりなかった。


 気分を切り替えて、さっそく被害者の救出作業に移ろうとすると、まだ意識を保ったままこっちを凝視しているタカコを見つけて歩み寄る。


 タカコは腰が抜けたようにへたり込んでいた。


「どうした? 鳩が豆鉄砲食ったような顔して?」


 だが俺が話かけると、タカコは再起動して飛び上がった。


「わぁ! ダイキチさん! 私は今感動しています!」


「お、おう……」


 メガネを輝かせているタカコは興奮していて、追突しそうな勢いで詰め寄って来た。


「アレを、どうやって倒したんですか! ただの科学由来の力だけではありえないでしょう!?」


「そりゃぁ……まぁ科学だけじゃない。色々混じってるし」


「色々!? やはり! 魔法はそうだと思いましたが、呪いまで……攻めすぎじゃありません?」


「そんなことないだろう」


「……ええ、そんなことありませんよね! 使えるものはなんでも使うべきでしょうとも」


 うんうんと力強く頷いているタカコは、今更ながらに俺の戦い方に興味を持ったようだった。


 俺としてはそこをほめられるのは嬉しいのだが、タカコの変化は気にかかる。


 意識を保ってこうして元気にしているところを見ると呪いと相性が良かったのだろうか?


 いや、このギラギラとした目の輝きを見る限り相性は良かったのだろうと俺は確信に近いものを得た。


「ふーむ」


「な、なんです?」


「いや大したことじゃないんだが」


 タカコは逆にじろじろ見られて身をかばう。


 何だと言うほどの事でもないが、呪いとの相性というのが俺なりに気になっただけだ。


 実のところ直接取り込まれた俺にはあの犬頭が使っていた呪いとの相性の良さというのに見当がついていた。


 追い詰められた時、そして死の迫る瞬間、抗うことができない自分の無力を生き物は呪うものだろう。


 ひょっとすると自分を理不尽な目にあわせる敵や運命を呪うかもしれない。


 そのどちらにも、強さに対する渇望があるはずだった。


 あの犬頭がそう言う感情をベースに呪いというやつを形作っていたのだとしたら相性がいいのもうなづける。


 俺の中にいる竜だったり髑髏だったりはまさにそうだ。


 あいつらは、呪いは感情が力を持ったものだと言った。


 同じ方向を向いているから、あいつらは俺を傷つけない。


 だってその方がもっと効率よく強くなれるから。


 だがもし俺が強くなることをあきらめた時、どうなるかはあまり考えたくはなかった。


 つまりタカコも力が欲しいのだろう。


 知識を集めたいのかもしれない。


 味方を集めたいのかもしれない。


 それとも俺と同じように単純に戦う力を求めているのかも。


 俺にしてみればそれはどうということもない話である。


 ただ、ああでもないこうでもないと頭をひねっているタカコに対して俺はつい口を出していた。


「まぁなんだ。俺がこっちに来てから聞いた格言を教えよう」


「へ? 格言ですか?」


「そう、異世界から来た人間は頭のネジが一本外れているんだってさ。タカコも気を付けた方がいい」


「格言なんですかそれ? けなされてません? な、なんでそう言うことを私に言うんですか?」


「いや……なんとなく」


 気のせいならばそれでいい。


 まったく意味不明だと受け取られた方が健全な話だったが……。


「でも、そうですね……ちょっとわかりますねそれ。それであの割れた鏡はもらってかまいませんか?」


 そう言って笑ったタカコの目には、よく知る炎が揺れていた。


「……」


 まぁ―――俺に何が言えるわけでもないのだが。


 今日も俺は異世界に試されていた。


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