俺のターン
ふと湧き上がった不安をいやいやと俺は首を振って振り払った。
敵を倒さなければ生きて帰れないのだから、敵の数など考えるだけ無駄だ。
死力を尽くして突破出来たら、ゴールに命がぶら下がっているだけである。
「……ためらうな。迷う要素はない」
『マスター、来ます』
テラさんの警告の後、あらゆる方向から牙が襲い掛かって来た。
俺は咄嗟に避けるが、追撃は止まない。
ガチガチと噛み合わされる牙の音にヒヤリとしたが、しかし攻撃以上に不可解なのは俺に攻撃が集中していることだった。
「なんかすげぇ集まってないか!」
『現状術者は不在で、呪いの回収を優先する性質を備えているようです。より強い力に引きつけられている可能性があります』
「……ってことは逆に好都合だな」
無限の敵の集中攻撃というのはぞっとするが、俺に集まるというのならそれはそれで悪くない。
誰かをかばいながら立ち回るよりはよほどやりやすいだろう。
そしてそれは、配慮など何もいらないということだった。
俺はブルリと体にこみあげてくるものがあった。
それが恐怖からくる震えではなく、武者震いと言われる類のものだと自覚するのに時間はいらない。
存分に敵を引き付けて上空を駆け上がった俺は、視界いっぱいにねじれながら襲ってくる化け犬に全力で拳を振り下ろし、その体を稲妻と化した。
今日の電気は赤黒い閃光となって、闇を引き裂く一撃となる。
空から地面を貫き、呪いを効率的に喰らい尽くす雷撃に俺は黄金の髑髏を幻視した。
「うっひょう! 何匹来ても行けるな!」
『次、来ます』
「ああ! ペースは掴んだ! どんどん来い!」
あまりにもあっさりと飛び散る化け犬達に、俺のわずかに感じた恐怖心は霧散していた。
襲い掛かって来る敵に対処可能なら、狙うべき場所は決まっている。
俺はぴか一に怪しい鏡を持った他とは違う犬頭の神主みたいな奴を探し、まっすぐに歩き出した。
当然追撃はやって来るが、冷静に対処していけば問題などない。
闇が蠢き右側面から襲い掛かってくるのを右手の一振りで粉砕。
更に進めば正面から無数に集まった犬の化け物が一塊になり巨大な犬の頭になって突っ込んでくるのを左手の拳で打ち砕く。
もう一歩前に進むと床からでかい牙が虎ばさみのように飛び出すのを右足で踏み砕いた。
「ああそうか……」
俺は一歩進むごとに理解する。
そしてぶつぶつと呪文を呟き続けている犬頭の前までたどり着いた俺は顔を近づけ言った。
「お前は―――俺の敵じゃない」
渾身の右ストレートは、犬頭の持つ鏡を打ち砕き、闇に覆われた空間は鏡が割れるのと同じように砕け散った。