不思議と絶好調だけど
俺、大門 ダイキチは、絶好調だった。
呪いの中を進んだという割には健康な、というよりもいつも以上に身体がよく動く。
更にパワードスーツのフィット感がまるで体と一体化したようだった。
とはいえ、いきなりよくわからない事態が続いて、敵すらよくわからない状態ではあった。
まず正体を隠したマリー様とフォックスは気を失い、シャリオお嬢様もなぜか倒れている。
タカコはまだ意識があるようだが、それ以上にこの場にひしめいているどう考えても敵なモンスターへの対処が最優先に見えた。
敵はいきなり俺をわけのわからない空間に閉じ込めたクソ野郎なのは間違いないが一体何をどうすればいいやら。
ざっと見渡して一番怪しいのは目の前にいる割れた鏡を持った犬頭か。
次点で空にひしめいているでかい犬の群れだろう。
大穴でいつの間にか目の前にいたタカコも、なにかが化けているなんてありそうな話だ。
「だが……まぁ見た目敵だとわかるやつを一掃してからでもいいだろ」
ひとまず一番怪しい犬頭に狙いをつけるとテラさんは補足した。
『物理攻撃、魔法攻撃共に高い耐性を持っていることが判明しています。注意してください』
「注意って……どう注意するんだそれ?」
『不明です』
「えー?」
それってばほとんど無敵っていうんじゃないだろうか?
普通に考えれば手詰まりである。
普段なら、馬鹿を言うなと逃げに徹するべき場面であるが、不思議と今日の俺は負ける気がしなかった。
「いや、いけるな。そんな気がする」
『勘ですか?』
「ああ。不満か?」
無理もないと俺が笑うと、テラさんはどこか愉快そうに同意した。
『いえ。実は私もそんな気がしています』
「なら―――百人力だな」
俺は首に手を回し、マフラーを手に取る。
とたん周囲の闇がざわめき、俺に一斉に襲い掛かって来た。
「邪魔だ!」
真っ赤なマフラーは一瞬にして黒く染まり、蛇のごとくのたうつと縦横無尽に周囲の犬の化け物を薙ぎ払った。
攻撃は効かないはずがバツンと確かな音を立てて、数百の化け物は千切れ飛ぶ。
その衝撃はすさまじく、マフラーの思わぬ活躍に俺は震えた。
「ハッ! 直感は当たりだな!」
『敵ダメージを確認。原因は不明です』
「確かに! 俺にも不明だ!」
マフラーは明らかにいつもより強力だった。
心当たりは希薄だが、謎の空間での出来事が無関係とも思えない。
だが理由はこの場を切り抜けてから、いくらでもひねり出せる。
「まぁ今は……難しい理屈はいいや」
『後日検討するとしましょう。無限に湧き出る敵への対処を優先すべきです』
「はは! テラさん! 今日はずいぶん漠然としたことを言うじゃないか! できれば無限じゃなくって、正確な数を言ってほしいね!」
調子が出てきた俺は冗談のつもりで会話を楽しんでいたわけだが。
『この空間に存在している黒い獣の総数は666体。先ほど倒した個体は瞬時に補充されたようです。どうやら既定の数から減らすことは難しいようです』
「え? それって無限沸き?」
どうも普通の報告も混じっていたらしいテラさんの言葉に、俺はさっそくだがちょっとめげそうになった。