春風ツクシは勇者である
とりあえず買っていたサンドウィッチを用意すると、ハムスターのようにモリモリ頬を膨らませて食べる勇者ツクシはとても幸せそうだった。
俺は相変わらずうまそうに食うなと、ぼんやりしてそれを眺めているという我ながら不思議な構図にあきれてしまう。
あっという間に食べ終えたツクシは満面の笑みでニパッと笑った。
「あっはっはっはっはっは! おいしかったぞ、だいきち! ごめんな! 勢いあまってドアが壊れた! すぐ直してもらうから大丈夫だ!」
「……いや、いいよ。なんか嫌な予感しかしない」
「僕らがだいきちのお手伝いをしたら素敵なお店になるはずだぞ!」
「……いやいやいや、え? いや、いつ手伝うって話になった?」
「大丈夫! だいきちは大船に乗ったつもりでドンと構えているといいぞ!」
「ははん……ようし、わかったぞ? こいつは何を言ってももう手遅れなやつだな? わかった俺も覚悟を決めよう」
俺はツクシの強引さを思い出し、ちょっと懐かしくなった。
そして人を使うことを覚えたのなら、昔よりもこの強引さはパワーアップしていたって何の不思議もなかった。
こんなんでもツクシは間違いなく勇者である。つまりはかなり顔も利くし、それなりの権限というものがあった。
「じゃあ今から新撰組のみんなを呼ぶからな! 待ってろぉ! だいきち!」
「新撰組?」
ツクシが玄関の前に飛び出し、どこからか愛用のホイッスルを取り出してピリリーと吹き鳴らした。
とても嫌な予感がして俺は固まる。
「今のは……」
「すぐだぞ! 案ずるなだいきち!」
もちろんホイッスルの呼び出した者達はツクシの言うようにすぐにやってきた。
ドッと冷や汗が噴き出す。
そしてドドドっと兜と水色の羽織で武装したマッチョが雪崩のようにやってくるのを見て、俺は直視出来ずに顔を両手で覆った。
正面の道が広めなのも最悪である。
胸を張ったツクシの前にずらりと整列した兵士達は盛り上がる筋肉に幾筋も血管を浮き立たせ、息も切らせず指示を待つ。
「新撰組、ただいま到着いたしました!」
兵士の報告にツクシは満足げに頷き、さっそく命令を出した。
「よし! 今からだいきちの手伝いをするぞ! 掃除だ! 頑張れ!」
「「「「「ハッ!」」」」」
短くはっきりとした返事の後、マッチョ達はいい笑顔で胸をたたき敬礼する。
彼らの表情は声に出さずとも、任せておけよと訴えていた。
ははん。なるほど、さてはこいつらも面白がっているな?
っていうか新撰組って何だろう?
疑問ではあったが、羽織と名前が合わさり、そこにツクシがそろえば、それが完全に彼女の趣味だということは間違いない。
俺はひくりと表情をゆがませたが、こうなったらもう抗う術など存在しなかった。
だから俺は素直にあきらめて、頭を下げた。
「……よろしくお願いします」
「よし! 突撃だ! 僕に続け!」
号令と共に兵士達は、俺の家に突撃する。




