サブパワーで試運転
『メインパワーのない状態ですので大きく出力は落ちますが、作業の効率は上がるはずです』
「お……おおお……おおお」
俺はうめき声ともいえないような声を漏らし、それを身に着けた。
確かに金属の感触があるのに、身に着ける前より後の方が動きやすい。
「いや、そもそも軽かったのは軽かったが……これ何で出来てんの?」
『ナノ・メガロニウム製です。元の世界では軍事機密として扱われていました』
「なんと……そんなロマン金属が……」
まさかそこまでロマンが詰め込まれていたとは思わなかった。
あまりにも軽いが、体を捻ってみても体をしっかりと支えている感触がある。
「指の先までこんなにスムーズに動くのか」
『金属自体も収縮し動きをサポートします。強度もかなり優秀ですので一見華奢に見えても、そう簡単に壊れるようなことはありません』
テラさんがお墨付きを出す。そしてこいつは俺の常識からかなり逸脱した代物だと体感した。
「お、俺は……今、死んでも悔いがないかもしれん」
『気をしっかり持ってください。サブパワーではとりあえず動く程度です。長年起動していなかったこともありますので最初は慎重にお願いします』
「お、おう……任せといてくれ」
確かにパワードスーツはどんな不具合が起こってもおかしくはなかった。
俺は言われた通り慎重に一歩踏み出してみた。
キュインっと音がして普通に歩ける。もう一歩踏み出しても問題ないようだった。
「よ、よし。次は……」
今度は愛用のツルハシを持ち上げてみよう。
それなりに重さがあるはずだが、普段よりもはるかに軽く、ほとんど重さがないように持ち上がった。
「うおぉ……軽いぞ、テラさん!」
『パワーアシストできなければ、パワードスーツの意味がありませんマスター。ひとまずこのまま作業してみてください』
「了解だ! 任せろテラさん!」
俺はツルハシを振りかぶり目的の方向に突撃する。
そして作業中にいつもとの違いに驚いた。
何時もは砕けない岩が簡単に砕ける。
何時もは小分けにして持つ物が簡単に持ち上げられる。
サブパワーでさえ、鉱山のドワーフ達とそん色ないどころか上回っているんじゃないだろうか?
控えめに言って、素晴らしい。
「……これはすごいな……すごすぎないか!?」
これが本来の力で使われた時どうなるのかと想像しただけで、鳥肌が立つ。
調子に乗って作業を進めているとガツンと音がして地面の手ごたえが変わった。
「ん?」
土を払ってみたら、そこには今まで以上に大きな岩が通路を遮っていた。
「……いや、お前どうやって通路に入って来たんだよ。おかしいだろ」
岩はかなり大きく硬い。
ツルハシでコツコツ砕いていくのもいいが、俺の頭に馬鹿なひらめきがあった。
「ふむ……しかしやってみたい」
俺はひとまずツルハシを脇に置いて右手を数回握りなおす。
「ふん!」
そして拳を作り、思いきり岩にたたきつけた。
インパクトの瞬間ズンと重い音がして、岩に派手にひびが入るのを見て俺は思わず感動で震えた。
「おお! パンチで岩を砕けるのか!」
『無茶はやめてください』
「……すまん、テラさん。でも殴ったらどうなるかなって思ってっておうわ!」
その時ズズンと何かが降ってきて身をかわす。
数秒前まで俺のいた場所には俺の頭ほどの岩が落ちていた。
「……」
『今の衝撃で石が落ちて来たようです。慎重に作業してください』
「……うん」
俺は少し調子に乗りすぎたらしい。
パワードスーツは素晴らしいが、俺は今後ヘルメットの導入を決定した。