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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
犬神の呪い編
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今この場の脅威

「「ギャァアアア!」」


「残念だが手遅れだった」


「……いやな奴でしたけど、こうなると哀れですね。すべてが終わったら墓でも建ててあげましょう」


 別れというものはいつも突然やって来る。


 タカコは目じりに別に滲んでいない涙をぬぐい、燃える怪生物を見ていた。


 だが怪生物は巨大な腕を振るい、燃える炎を振り払うと、どさりとその場に崩れ落ちたが、まだ動いていた。


「ぬぐぉおお! あっつい! クソ! なんなんですか一体!」


 そして手の中にいたキョウジは割と元気だった。


 マリーは中々の生命力に感心したようにうなずく。


「おお! 生きてるぞあいつ! いい根性じゃないか!」


「……しぶといな」


「どれだけ嫌いなんだ?」


「とりあえず命のやり取りをするくらいには嫌いです」


 怪生物が防御の役割を果たしたのかキョウジは案外元気そうだがいつもの事だろう。


 無事だったものは仕方がない。


 今は立て込んでいるので、結局キョウジの事は脇に置くことにした。


 それよりも、目下危険なのは怪生物の方ではない。


 怪生物を燃やした炎の騎士は未だにほぼ敵意に近い視線をタカコに向けていた。


「……貴女はあの方と一緒にいる謎の女ですわね。そして……初めて見る顔ですね」


 ボンと燃え上がるシャリオに、タカコはビクリと身をすくめる。


 一方で進み出たマリアンは堂々としたものだった。


 前にいるだけでチジミ上がりそうな目で見られているというのに、怖がるどころかどこか嬉しそうにニコニコと話しかけるマリアンの姿はちょっとした勇者だとタカコは思った。


「これは初めまして、お嬢さん。私の名はマリアン。旅の者だ。呪いの中に飛び込むなんて、随分無茶をする」


 このマリアン、ノリノリであった。


 というよりもマリアンは本心から嬉しいのかこのイケメン、オーラが本物である。


 タカコにしてみれば「だが女だ」と言い聞かせてようやく正気を保てるほどの爽やかヤバさだ。


 一方眉一つ動かさないドリルヘアーを燃やす女、シャリオは一定の距離を保ってマリアンを睨み、イケメンオーラを受けてなお殺気が止むことはない。


「この程度どうということはありませんわ。入る必要があるのならどこへでも入りましょう。邪魔するのならだれであろうと焼きますが?」


「怖いな……私達は君と敵対するつもりはないんだが」


 もはや圧力さえ感じるほどの殺気を前にして、タカコはそっと桜の陰に退避した。


 だがマリアンは一歩も引かずに肩をすくめる。


「ここには彼女の旅の仲間が囚われているんだよ。君の目的が何であれ、ここに押し入るのならむしろ味方だと言っていいんじゃないか?」


 さらりと説明するマリアンに、シャリオは怪訝そうに眉をしかめた。


「誰かが捕らわれているのですか?」


「ああ。だから共闘したい。どうだろうか?」


 マリアンの提案に、シャリオも思うところがあるらしく口元に手を当てて、数秒考えこむ。


 そしてタカコとマリアンに交互に眺めてシャリオが出した結論は、大体マリアンの提案に沿っていた。


「……勝手になさい。私は一刻も早くこの場所を制圧する用事が出来ました。その後を貴方達が通っても見とがめはしません。ただし私の炎は凶暴です。巻き込まれても何の責任も負いませんが」


「ああ。それで構わない。言ったろう? 邪魔はしないさ」


「結構。しかしなんででしょう? 貴方とは初めて話す気がしませんね?」


「なんでだろうな? 私も君とは初めて話す気がしないね」


 ふっとここでようやく、空気が緩んだ。


 もちろん打ち解けたというほどに和んではいないが、きりきりに張り詰めていた緊張の糸に余裕が生まれたのは確かである。


 タカコはほっと胸をなでおろし、そろそろ桜の陰から出て行こうとしたのだがその時、炎で煙を吹いていた怪生物が再び動き出した。


 ボコボコと体を蠢かせ、取った形は今度こそ巨大な化け犬だった。


 ただほんの少し違うのは犬の額に見知った人間の上半身が付いていることだ。


「貴様らぁ! もう許しません! ここの化け物の前にあなた方を八つ裂きにしてあげましょう!」


 どういう状況なのかキョウジはちょっと飲まれて、今は犬の額に生えていた。


 怒りでリンクしているのか血走った眼は共通である。


 先ほどちょっとだけ打ち解け、空気が柔らかくなったシャリオとマリアンの間の空気が剣呑なものに瞬時に切り替わったのを感じたタカコはとりあえずもう一度桜の陰に隠れる。


「……ちなみに、捕らわれている知り合いというのはあれの事ではありませんね?」


「ああ違う。八つ裂きにすると言っているし。敵だろう」


「結構。ならば問題ありません」


 もう一度言うが、今この場において一番の脅威は怪生物でもキョウジでもない。


 ようやく状況が整理できたのかキョウジは自分を睨む人物に目が行き、点になった。


「……へ?」


「……キュウン?」


 怪生物の化け犬から思いの外かわいらしい鳴き声が出た。


 その後、敵に襲い掛かった水と炎は確かにどちらも凶暴だった。

 


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