きっと先に進んでもろくなものはいない
「何ですこの寒気……」
気温が一気に下がったような感覚にタカコは不気味さをまず感じた。
それは突然病気にでもかかったような不快感で、とても形容しづらいものだった。
これが呪いというモノのせいなのでは?
そう考えたタカコがマリアンと狐の様子を覗き見ると、狐は鼻を押さえて蹲っていて、間違いなさそうだった。
「うっげ! 今までとは比べ物にならない呪いが噴き出してますよ! やべー……」
「壁を壊したせいだろ。あの壁はどうやら呪いを内に押し込めておくためのものだったようだ。それでも漏れ出た呪いが私達が戦ったやつだったんだろうさ」
「そ、それは一体どういう?」
「なに、どうやらここからが本番ってことだ」
大穴を開けた黒い壁を眺めてマリアンはそう言うが、今まで以上に本番だというのならタカコも聞き流せない。
「……今までも大概ヤバかった気がするんですけど?」
不安で目が泳ぐタカコに、すかさず狐が余計不安にさせるようなことを付け加えてきた。
「いやいや今までの比じゃございませんよ。臭いが鼻を殺しに来てる感じが分かるでしょうに!」
「いや……わかんないんですけど」
涙目の狐はなぜかちょっと切れ気味で前足をテシテシしていた。
臭い云々はわからないが、しかしタカコにも何かまずいことが起きているというのは理解できる。
そしてその上で、先に進むための突破口が出来た事もまた確かだった。
マリアンはやれやれと乱暴に頭をかいて、ため息を吐く。
「だが行かない訳にもいかんのだよな……全く、シャリオのやつ。無謀が過ぎる」
「えぇー行くんでございますか? もう一度、帰ってみては?」
鼻が曲がりそうだと狐は訴えるが、溺愛している狐の力をもってしても、マリアンの決定は揺るがない。
「変装までしたんだ。ここで放って帰るのは格好がつかんだろ?」
「はいはい、了解でございますよ……」
それは狐にも分かっていたのか尻尾をしょんぼりと垂れさせながらも、引くのは早かった。
そんなやり取りを見たタカコは仕方がないかと察してハンドルを切った。
「でも、呪いの感覚ってわかる物なんですね。あなた達しかわからない感覚だと思っていたんですけど、なんだかおっかないです……」
二の腕をこすりながら、ちょっと弱気が出てタカコは訴える。
マリアンならクスリと一笑して、これくらい大したことがないとでも言うかと思ったが、マリアンの表情は一切笑みを浮かべず、真剣に壁を見ていた。
「程度に寄るのかもな。実際アレは私もちょっと近づきたくはない」
「……」
聞くんじゃなかったと後悔したがもう遅い。車は来た道をすでに戻っている。
行先はもちろん壁の穴の奥だった。