はじき出されたテラさん
タカコが驚き飛び退くと、マリアンがすかさずタカコと謎の光体との間に割って入った。
何このイケメン、紳士すぎ! などと感動している場合じゃない。
あまりに自然に行われた行動に若干キュンときたタカコだったが、残念ながらあのイケメンは女である。
タカコは活を入れすぐに正気に戻り、ひょいっとマリアンの肩越しに光る球体を覗き込むと、恐る恐る尋ねた。
「あの……ひょっとしてテラさんですか?」
『その通りです。よくわかりましたね』
「ええ、声に聞き覚えが……え? どういう状態なんですこれ?」
タカコは球体に歩み寄ると、別に何かが核になっているわけでもない光る塊に好奇心を刺激された。
『どうやら、マスターのスーツからはじき出されてしまったようです。不覚でした』
「ええええ……こう言っては何なんですが、弾き出るもんなんですか? なんというか……もっとAI的なものだとばかり思っていたんですけど?」
『ベースはそうですし、今現在も同様の機能は備えています。しかしこの私はかなり本来の仕様から変質している特殊な個体とお考え下さい』
「く、詳しく調べてみたい……」
かなりウズウズしてきてメガネを光らせるタカコだったが、さすがのそれはマリアンに止められた。
「タカコ、悪いが話が進まない。こいつは味方なのか?」
「あ、はい。たぶんそうです。ダイキチさんの……相棒?みたいな感じです」
かなりわかりやすいように言葉を選んだタカコの説明で、マリアンはゾクリとするような殺気を引っ込め今度はテラさんの方に尋ねる。
「そうなのか? 間違いないか?」
マリーの問いを光るテラさんは肯定した。
『はい、間違いありません。私はマスター、ダイキチ様を救出せねばなりません。ご助力願えますでしょうか?』
「もちろんだ。だがどうする? あいつの居場所はわかるか?」
『はい、マスターの位置はこちらで補足可能です。そしておそらくは敵の位置もタカコ様ならわかるかと』
「そうなのか?」
『はい。この土地には異世界からやってきた人間を探知して来ましたので。おそらく襲撃してきた術者は同じ人物でしょう』
そう言われて、タカコはああっと思わず声が漏れた。
慌てていたが、この近辺にいる人間で、転移してきた者の位置なら大体把握できている。
ここまで近づいてトラブルが起きたなら十中八九その原因は追っている人間だろう。
「あ、そうか。そうですね。じゃあ念のため、位置をお互いに確認しておきましょうか?」
『よろしくお願いします』
今回の異世界人には敵意あり。そして行方不明のダイキチの位置さえつかめれば簡単な作戦くらいは立てられる。
「……敵の位置も、人質の位置も把握できるなら、襲撃しやすそうだな」
「戦闘ですか? いい運動になりそうですねぇ」
唯一の懸念は戦闘能力だったが、マリアンの戦闘意欲にあふれた表情とどろんと煙を吹き見上げるほどに巨大化した狐を見れば、そんな懸念は吹き飛んでしまった。