呪いの装備
「……ハッ!」
俺が目を覚ますとそこは暗闇だけの空間だった。
だがヘルメットの裏に微かに灯ったディスプレイの明かりが、俺がまだ死んでいないことを教えてくれる。
「……一体何が起こったテラさん!」
思わず叫んだ俺にテラさんからの返事はなかった。
耳の届く微かなノイズ音に、俺は胃の底がドンと重くなるのを感じていた。
「……嘘だろ? ほんとあの一瞬で何が起こった?」
「簡単なことだ。攻撃を受けたんだよ」
「誰だ!」
突然、頭の中に声が響く。
声は狼狽えた俺を面白そうに笑い、俺の目の前ではマフラーが勝手に動いていた。
「俺だとも。竜の呪いと言えばわかるか? まさか心当たりがないとは言わんよな?」
「……あるにはあるがマフラーが口を利くとはたまげたなぁ」
「ほっとけ。もっと緊張感を持てよ俺達は得体のしれないものに飲み込まれているんだぞ? お前がテラさんと呼ぶ精霊は飲まれた拍子にはじき出された」
「それは……控えめに言って大ピンチだ」
どうにも夢か現実か非常にわかりにくかった。
だが竜の呪いは、竜を倒した経験がなくはない。
そしてもう一つ気になるのは、手のひらサイズの金色の髑髏がいつの間にか俺の胸に抱かれていたことだった。
「笑止。この程度の呪いに手を焼くとは」
「こっちのは……ひょっとしなくても黄金髑髏さんか。ずいぶん懐かしい顔ぶれじゃないか」
かつて俺が倒した相手は、しゃべる気配すらなかったはずだが、ここにきてまぁよくしゃべる。
そして敵対するどころか、マフラーは俺の体に巻き付いていて、黄金髑髏さんは金色の粉のようなもので俺の周囲を包んでいた。
それはまるでマフラーと黄金髑髏さんは俺を守っているようであった。
彼らが何を考えているかはわからない。
だが他に当てもなく、俺は自然に彼らに尋ねていた。
「一体何が起こったんだ?」
「お前は妙な術で取り込まれたんだよ」
「やられたんじゃなく取り込まれたのか?」
「……ああ。そうだよ」
マフラーはやれやれとでも言いたげだったが、俺にはいまいちよくわからなかった。
「どういうことだ?」
「あの時お前は犬のような影に襲われた。アレは呪いを食う性質のものだ」
そう答えたのは黄金髑髏さんである。
骨なのにあまりに流暢にしゃべる黄金髑髏さんに俺はちょっと感動した。
「……出会った時は、ただ暴れるだけだったのに立派になって」
「のんきなことだな。今まさに取り込まれているというのに」
「そりゃそうなんだが……冷静になるとな。呪いがそもそもよくわからない」
話し相手がいるというのはいいものである。
現状俺は、知覚できない攻撃で意識を失ったくらいの認識だった。
呪いと言われても、言葉の響きから漠然と危険なものだとわかる程度である。
魔法の亜種とでもいえばいいのか、得体がしれないと言ってしまえばそんなようなものだ。
黄金髑髏はカタカタと顎を鳴らす。どうやら笑っているらしい。
「呪いとは感情を力に変える術。故に不安定であるが、力に底がない」
「底がないってのはなんか怖いな」
「然り。強力な感情が元になっているほどに恐ろしいものとなる」
しょうもなしと黄金髑髏さんは黙り込む。
一方でマフラーは妙に楽しそうだった。
「そんでそんなものを集めている時点でろくでもないのは確定だ。まぁ力を求める姿勢だけは評価できるが」
「どうだろうな……死ぬほどめんどくさそうな奴としか思わんけど」
「違いない!」
マフラーは陽気に笑っていて、何だか意外だった。
「思ったよりも話せるなお前達。呪いはめんどくさいもんって話だがそうでもないのか?」
つい、そう口にするとマフラーはぎゅっと首に巻きつきなおし、黄金髑髏はカカッと骨を鳴らした。
「場合によりけりだよ。髑髏が言っただろう? 呪いは感情が力を持ったものなんだぞ?」
「納得さえできれば、折り合いがつく。それが感情というモノだ」
「そんなもんか?」
俺の何がこの呪い達を納得させたのか? 聞いてみたいが、俺は少し聞くのが怖かった。