気合を入れたとたん、これだよ
「さて無力化はしたがどうするかねぇ……友好的にとはいかなさそうだが」
マリーは水球の中から動かなくなった黒づくめ達を解放しようとしたが、しかしそいつらはゴポリと全身から泡と黒い靄を残して水に溶けるように消えてしまった。
マリーは驚いていたが、肩に戻ったフォックスの方は目を細めていた。
「どうやら術で作られた人形だったようですね。手の込んだことをなさいます」
「人形?」
「ええ。呼び名は違うかもしれませんが命令に従う傀儡な類です。おおよそ間違いないと思いますよ」
解説担当が思いのほか楽しかったのか、フォックスはどや顔である。
マリーはとても誇らしげにフォックスをもふっていて台無しだが、今回の相手はフォックスの使う力と近い可能性は高いようだ。
「なるほど。便利な能力もあるもんだな」
俺は先ほどの戦闘を思い出して深く頷く。
結構な殺傷能力を持っていたと思うが、ああも精密に動かせる敵を量産できるのは脅威だ。
最初から友好的に行かなかったのは痛いところだった。
さっきの攻防で俺達は完全に敵認定されただろう。
そうなると技術を譲り受けることができるかは相当うまくやらなければ不可能だ。
「なんか学べるところがあればいいけどなぁ」
「ダイキチ……お前逃亡中なのに余裕が有り余ってるな」
マリーはフォックスをなでながら俺を眺めて感心していたが、俺はそもそもこの逃走劇すら半ば茶番みたいなものだ。
「まぁ……そのつもりで出て来てますしね」
だがそこは命がけの茶番である。常に全力で当たらないと、一瞬後は何が起こるか分かったものではない。
「さて、じゃあ遠隔操作だっていうのなら術者を探さないときりがないな。フォックス的にはどうにかできないか?」
フォックスなら何かわかりそうだと思ったのだが、フォックスは鼻を鳴らした。
「そんなことせずとも、向こうはこちらの位置を把握したはずですよ。そのうち向こうから何かアプローチしてくるでしょうよ」
「まぁ……そうか。そうだな」
今度はどんな襲撃がやってくるか怖くはあったが、対抗できないことはない。
俺は車に乗るタカコ、マリーとフォックスの顔を順番に見回した。
危険が大きいなら、なおさら俺が頑張るべきだ。
「どんな手で来るかわからない……みんな注意していこう!」
ビシッとそれらしいことを言ってみたわけだが、慣れないことはするもんじゃなかったのかもしれない。
俺の視界は、そこで真っ暗になる。
「え?」
バックリと突然空から降って来た巨大な犬の頭に、俺は頭から飲まれた。