俺は好きなんだが。
油の効果は抜群だった。
人型すら保てなくなったガムガム魔人は再び膨れ上がって爆発の体勢を見せたが、形にすらならない。
俺はそんなガムガム魔人の元に歩み寄ると、両手にエネルギーを限界まで充填した。
『エネルギー充填完了しました』
「ああ、最大火力を叩き込んでダメならまた何か考えようか」
俺はバチバチと目視できるほど雷光をほとばしらせて限界ぎりぎりまで力を溜める。
崩れた体で俺を見上げるガムガム魔人は一瞬悔し気に笑ったように見えた。
「……此処までか。まさか負けるとは思わなかったよ」
なんか語りだしたガムガム魔人。
俺は聞かなきゃいけないかな? と疑問はあったがひとまず耳を傾ける。
「ボクはもともと子供向けのお菓子でね。膨らませるといろんな形に出来るちょっとした人気商品だったのさ。でもミント味のガムは……元の世界で子供に人気がなかった。パッケージの緑のピエロもなんか怖いと大不評で……結果売れ残ったボクらは廃棄された。こんなことが許されていいはずがない……」
語る意思のあるミントガムに、俺は何とも感情の籠らない視線を送る。
そんなこと言われたって、どうすればいいかわからん。
「そんな行き場のない怒りが集まってボクが生まれたのさ。その力はとても強くてね、だから滅ぼしてやったのさ。僕らにはそれができたからね」
それはさすがにどうなんだろう?
子ども用のガムに滅ぼされた開発者も、滅ぼしたガムもどっちも幸せに離れないんじゃないだろうか?
俺はエネルギー塊を頭上に掲げ、思い浮かんだ言葉を贈る。
「……俺は好きだよ。ミントガム」
「……!」
ガムガム魔人は驚きの表情を浮かべ、そして穏やかに溶けてゆく。
何か体と一緒に大きな疑問も溶けたらしい。
俺はエネルギーの塊を容赦なくガムガム魔人に叩きつける。
消滅するガムガム魔人は妙に悟った感じだった。
「そうか……ボクは認められたかっただけなんだな……世界が違えばひょっとして……いやダメだな……最初から……最初から大人用で発売していればこんなことには!」
最後の最後でちょっと取り乱したようだが、これで決着である。
「よし! まあこれで作戦終了だ!」
ふぅと息を吐き、俺は振り返る。
中々いい仕事をしたんじゃないかと思ったのだが、周囲のスライム達が一斉にざっと距離を開けた。
「え? なに?」
よく見ればスライム達はがたがた震えていて、怯えているようにも見えた。
意味が分からず俺は首をかしげた。
警戒するスライム達とは対照的に、変身を解いてあの妙なスライムを抱えたツクシがやってきたので、俺はそっちに意識を向けた。
「やったなだいきち!」
「おう……でもなんでスライム達は怯えてるんだ?」
主にツクシにというよりしゃべれるらしいゴッドスライムの方に尋ねてみると、ゴッドスライムもまた若干怯え気味に俺に話しかけてくる。
「なんというか……おぬし容赦ないポヨ。毒を体に溶かすとか……異世界の戦士はおっかないポヨ……」
「あー」
なるほど、そう見えたか。
確かに油は俺達には一般的だが、ガムは溶けたわけだし。
似たような性質を持つスライムたちには俺の行いがどう見えたのか押して知るべしだろう。
「なんか……すまんかった」
なんとなく謝ってみたものの、完全に状況は手遅れだった。
ゴッドスライムと他のスライム達からなんだかよそよそしい雰囲気を感じ取る。
なんともいたたまれなくなった俺はどうでもいい話題をツクシに振っていた。
「ちなみに……ツクシはミントのお菓子好きか?」
「好かん! ミントはマズイ!」
「……そうかー俺は結構好きなんだけどなぁ」
「そっか! だいきちは大人だな!」
なんとも厳しい意見だった。
「いやーお疲れ様ですダイキチさん! 素晴らしい戦いぶりでしたね!」
「……おう」
終始完全に気配を消していたタカコが最後にひょっこり現れて適当にほめてくれたが、絶対に見てはいまい。
何やら調査とか言ってガムガム魔人の残骸やらスライム達を調べていたが、ツッコミを入れる気力もわかない俺は今度喫茶店でミント味の大人向け商品でも考えてみるかとそんなことを考えていた。