名前だけではなかった
「ツクシあいつを叩き潰すぞ!」
「がってんだ!」
肩を並べて俺とツクシは、ガムガム魔人を睨みつける。
真っ赤なマフラーをたなびかせ、唸る二基のエレクトロコアは今日も絶好調である。
周囲のスライム達は静まり返っていて、息を飲んでなり成り行きを見守っているようだった。
ガムガム魔人は、グニャグニャと体を蠢かせて、叫んだ。
「何をやっても……同じなんだよぉ!」
叫んだと同時にその体から飛び出したのはゴム弾の様な塊だった。
ゴム位ならなんとかなる、そう判断した俺は飛び出そうとしたがいきなりツクシからマフラーを引っ張られて後ろに吹き飛んだ。
「なんだ!」
「任せろ!」
叫ぶツクシは纏った羽衣を前へと突き出す。すると羽衣はニュルンと形を変えて透き通った丸い盾になる。
弾は盾に触れると、バチャッと弾けてへばりついた。
そしてうにゃうにゃと動いたそれはすぐにガムガム魔人へと引き戻された。
「チッ! 勘のいい奴だね!」
どうやらアレで捉えるつもりだったらしい。
「あぶねぇ……助かった」
「ん! あいつホントに何してくるかわかんないから気をつけろ!」
ツクシの助言に頷く。
さっそく助けられるとは情けない。
どうにか挽回しようと焦るが、その時はすでにツクシは聖剣を構えて飛び出していた。
その速度は明らかにさっきまでより速い。
「クッ! 速いなんてもんじゃない!」
勘にしても反応するのには限度があるという話である。
しかしガムガム魔人は、この速さにも対策していた。
「速いのは知ってるんだよ! これならどうだ!」
ガムガム魔人は体から蜘蛛の巣のようなものを全方位に放ち、ツクシを待ち構えた。
張り巡らせた体の糸は触れればからめとられるに違いない。
ツクシもそう判断し、巣に掛かる前に止まったが、ゴッドスライムの声がその背中を後押しした。
「かまわず行くポヨ!」
「……ん! わかったぞ!」
だからツクシは突き進む。
その進行方向に先んじて飛んで行ったのは羽衣だった。
細く、直線的にまっすく伸びた羽衣は、スライムの体らしく決まった形を持たずに崩れ、ガムガム魔人まで到達し、無理やり巣をこじ開けてツクシの道を作り出した。
「! そうだった……スライムだったな」
その道を寸分たがわず通り抜け、ツクシはガムガム魔人に肉薄する。
「クソ!」
毒づき、追い詰められたガムガム魔人が次に取る先方は何度も見た物だった。
膨れ上がって自爆する。
時間がなかったため大した威力はないが、ガムガム魔人はこれまでと同じようにそうやって仕切り直した。
飛び散った無数の粒が集まってくれば、人型にいったん戻る。
そのパターンは今回も同じらしい。
タブレットの動きを掴めば、その出現ポイントは自ずと絞られた。
「チィッ! スライムどもめ! 本当に厄介な助っ人を連れてきたものだ!」
ツクシだけに注目しているガムガム魔人の死角を取るのは俺にしてみれば、容易なことだった。
「転送……」
俺は足場を作り空へと駆け上がる。
そうして予測した位置の真上に移動し、俺は一個の樽を転送した。
「お疲れさん」
「!」
気が付いてガムガム魔人が視線を上げた時、それはガムガム魔人の目の前で破裂して、中身の粘液をぶちまける。
「な! なんだ!」
頭からそれを被ったガムガム魔人はいったん俺から距離を取る。
「よし、作戦一はどんなもんだ!」
着地を決め、俺はガムガム魔人を目で追った。
「クソ! なんだこれは!」
煩わしそうに叫ぶガムガム魔人に俺は追撃を駆ける。
ツクシもすでに聖剣を振りかぶり、ガムガム魔人の上を取り。
俺は地を這うように下からマフラーを振るう。
「無駄だと言っているだろう!」
ガムガム魔人は攻撃を受けた。
ツクシの聖剣に右肩から袈裟斬りに一刀両断され、俺のマフラーは下半身を吹き飛ばして四散させた。
そこまではいつも通り。
しかし今回ガムガム魔人は元通りには再生しない。
「な……なんだ! 何をした……うっ……グゴッ」
歪に溶け、狼狽えるガムガム魔人に、俺は驚いて口笛を吹いた。
「油をぶちまけたんだよ。なんだ、本当にガムと同じなんだな」
効果がなければ、第二案で火をつけてやろうと思っていたが、その必要はないらしい。
ガムガム魔人は、完全にまとまる力を失って地面にべちゃりと落ちていった。