スライムその無限の可能性
ピンク色のパワードスーツを着た勇者ツクシは、ヘルメットを脱ぎ捨てるという一見すると暴挙にも見えることをやらかしたが、一瞬で新たな可能性を花開かせていた。
バックパックから洩れる輝きは、エレクトロコアに勝るとも劣らない。
各部のパーツからは、パワードスーツの特徴を残し、力強い駆動音が響いている。
ダメージにより欠けたパーツを補うようにスーツ化したスライムは、先ほどの防御力を見るに、守りは固く、備えた柔軟性があればツクシの本来備えた運動能力を阻害することもないだろう。
ゴッド要素の天使の輪っかと羽衣も加わったその姿は、俺に言わせれば盛りすぎだ。
だがとにもかくにも春風 ツクシは完全に新しいスーツを着こなしている。
俺は認めたくはなかったが、認めないわけにはいかなかった。
「な、なんじゃありゃ……」
ぐっと唇を噛み、感情を抑え込む。
悔しい反面、それ以上にそう来たかと膝を打つ俺もいたのだ。
「なんていうか……スライムの無限の可能性を感じるっ……!」
『感じている場合でしょうか?』
テラさんのツッコミは的確だが、それでも俺のこの複雑すぎるやるせなさは本物なのだ。
「だって! ……いや、だってな? そう言う進化されるとは思わないじゃん? なんだよあれ! 色まで変えちゃってさ! 顔出しても可愛いってずるいよな!? 俺がやったらちびっ子に嫌われるよ!」
『落ち着いてください。また事態が悪化してしまいますよ』
確かに今はこだわりの話をしている場合じゃなかった。
こいつは後で仲間たちと存分に語らうとしよう。
「そうだった! いかんぞこれは! 放っておくと無尽蔵にパワーアップしていきそうな気がする……」
『さすがにそこまではないと思いますが……』
「いやありうる! テラさんはまだツクシを甘く見てるぞ! あいつは勝つまで強くなり続けるんだ!」
『マスターは勇者ツクシの評価となると天井知らずですね』
「昔はあったが壊された」
だからここは、俺も急いで何かせねばならない。
なんか変なスライムで一回毒気を抜かれてしまったが、油断すればこれである。
千日手の今の状況こそが、一番まずいのははっきりと証明されてしまった。
「こういう時、大事なのはパワーじゃない。状況を速やかに解決する冷静な判断力と行動だ」
速やかな解決こそが、唯一の心の平穏を手に入れる唯一の方法だった。
一応の納得は得られたのだろう。テラさんはテラさんらしく本題に入れと促した。
『では方針をお願いします』
「……横取りするぞ」
『横取りですか?』
俺は頷く。卑怯だと思うのならば笑うがいい。だが結局のところそうするしか方法はない。
「それでだ、テラさん。今すぐ用意してもらいたいものがある……それは」
俺は必要な物を告げ、パワードスーツの出力を最大まで上げて、飛び出していた。
肯定はないが、うちは飲食もやっているのだ、アレが大量にないわけがない。
青白い雷光を纏い、真一文字に空中を飛びながら蹴りを繰り出すと、ゴムゴム魔人の腹をめがけて叩き込んだ。
だが命中はしたものの、ゴムタイヤを蹴ったような重い感触は生物の物とは思えなかった。
「……なんだ?」
まるで効いていない風のゴムゴム魔人はぐにゃりと曲がった体を伸ばし、俺の顔覗き込む。
正直驚いたが、ひるむ前に叫んでいた。
「お前の敵だよ!」
すぐさま顔面に拳を叩き込む。
今度は弾け飛んだが、案の定ガムガム魔人はすぐさま再生した。
「また変なのが出て来たね……今日はどうなってるんだ?」
憎たらしく余裕の笑みを浮かべるガムガム魔人だ。
俺はガムガム魔人とツクシの間に割って入るように着地すると、ツクシの歓声が飛んできた。
「だいきち!」
「助太刀する! ツクシ協力してくれ!」
そこですかさず俺は力強くこの後の方向性を示す。
するとツクシはあっさりと目を輝かせていた。
「任せろ!」
計画通り。
自虐的に仮面の下でニヤリと笑う俺の顔はきっと我ながら鏡じゃ見られなかっただろう。
だが無理に活躍を奪ったのなら、キッチリそれ以上の成果を出さねば寝覚めが悪い。
俺はことさら気合を入れた。