不意打ちのパワーアップ
「ポーヨポヨポヨ! 少女よ! おぬしの祈り受け取ったポヨ!」
「別に祈ってないぞ?」
かまわず笑うスライムのメンタルは強かった。
そして今のやり取りを見ていた俺は、冷や汗を一筋流し呟いた。
「……何なんだろうあの物体は?」
疑問しかわかないが、スライムなのはまちがいない。ただなんでパワードスーツから飛び出してきたのか? それがいまいちわからなかった。
『バッテリースライムの反応があります』
それにこたえる布はテラさんである。だが俺には今ひとつ理解できずに首を傾げた。
「バッテリースライム? ってあのバッテリーに詰めてるやつだよな? しゃべってるんだが?」
『原因は不明です。しかしあの個体はバッテリースライムに酷似しています』
似ているかと言われれば、まぁ同じようなスライムだ。
ただ元々そのバッテリースライムはしゃべりはしなかったし、ただ電気を蓄え増幅し、動くものを攻撃する程度の反応しか示さないモンスターだった。
だがゴッドスライムと名乗るアレは、明らかにバッテリースライムより知能の高い生き物に見える。
ガムガム魔人もなんだかよくわからないエラそうなスライムの登場にいぶかしんでいた。
「なんだそいつは? スライムか?」
そんなことを言いつつすぐに攻撃しないあたりだいぶん警戒しているようだが。
強敵を前にしているはずのスライムはやたら自信満々だった。
「その通りポヨ! 我が名はゴッドスライム! スライムの頂点に立つ者!」
「ならごっさんだな!」
「ごっ……好きに呼ぶがよいポヨ。復活できたのはおぬしの力あってこそなんだポヨ」
ムムムと不本意そうに唸るゴッドスライムに、ガムガム魔人はめんどくさそうに動き出す。
「なんだか知らんが目障りだ!」
そう叫び、その体がどんどん膨れ上がっていく。
また爆発が来る前兆だが、ツクシが身構えるとゴッドスライムは不敵に笑った。
「大丈夫ポヨ。あの程度の攻撃よけるまでもないポヨ」
でっかいゼリーの自信満々の呟きは不安しかない。
しかしツクシは妙に力強く頷いて腕を組んだ。
「なんだかわからんけどわかったぞ!」
「あのバカ!」
だが俺はそこまでさすがに楽観はできなかった。
口に出したツクシはその通り実行するだろう。それが分かっているだけに焦る。
あの爆発は強力だ。
そして、ツクシが意識して防御しなければダメージが通る可能性は十分にある。
体の膨張が頂点に達した瞬間、ガムガム魔人はにやりと笑い破裂する。
ドンと熱のない強い衝撃が山を揺らした。
最初よりもさらに強力な衝撃波は地形が変わりそうな威力を披露して、周囲を更地に変えたが、そこに残ったのは仁王立ちするツクシと、彼女を包む青白い球体だった。
「……!」
俺は傷一つないツクシと青い球体を見て、声にならない声を上げた。
それはまるで、ツクシを守るバリアーそのものだったからだ。
「おお! すごいぞ! 全然痛くない!」
喜ぶツクシの声と同時にニュルンとバリアーが解除され、解かれたバリアーがツクシの頭の上に戻ると、その姿は元のスライムだった。
「当然だポヨ。我が体はすべての衝撃を受け付けんポヨ」
集まってきたタブレットはガムガム魔人の形に戻り、無傷のツクシ達を睨みつける。
「どことも知れずやって来た魔人よ、何を驚くことがあるポヨ? スライムの粘り強さは知っているポヨ?」
「チッ!」
思い切り舌打ちしているあたり、ガムガム魔人はそのスライムの粘り強さとやらを知っているらしい。
考えてみれば当たり前のことで、ガムガム魔人はすでにここにいるスライム達と何度も戦い、スライム達はここを守ってきたはずだった。
そしてその謎の生物は、高らかに叫んだ!
「よし! では最後の仕上げと行くポヨ!」
「ん? どうするんだ?」
楽しくなってきたらしいツクシは、どう見てもわくわくした視線をゴッドスライムへと向けている。
するとゴッドスライムは高々と飛び上がって力強く叫んだ。
「決まっている―――合体ポヨ!」
「合体か!」
俺は猛烈に嫌な予感がしたが、今度こそ動けなかった。
合体とか、聞かされたらそれは動けない。男の子の鉄則である。
ゴッドスライムはそのままシュポッと出てきたツクシのバックパックに収まると、チカチカと閃光が迸る。
光の中ツクシに水の帯のようなものが巻き付いて、パワードスーツの形状を大きく変えた。
ツクシの体はコーティングされて胸にはコアらしき石が輝く。
頭の上には天使の輪のような光体が現れ、透明の羽衣を身に纏えば合体が完了だ。
「色のリクエストはあるポヨ?」
最後にそうゴッドスライムの声が尋ねる。
「ピンクで!」
テンションの上がったツクシは即答すると、パワードスーツの色は鮮やかなピンクに染まるのだった。