奇跡って何が起こるかわからない。
ドンドコドンドコドンドコドンドコ。
どこからともなく太鼓のような音がする。
膜のように広がったスライムの上で別のスライムが跳ねていた。
スライム達は祭りの時以上に何かを祭り上ている。
俺には彼らの祈りが可視化されて見えるようだった。
「神が……神が降臨なされる!」
ライムの叫びが俺の耳に入った。
しないからね!
スライム達には悪いが早々そんなもん降りてきてもらっちゃ困るってものだった。
「さぁ! いつまで強がりが続くか楽しみだ!」
「もちろん勝つまでだ!」
そんなカッコイイこと言わないでよツクシちゃん!
あとヘルメットがなくてもかっこいいな! 美少女はお得だな!
取り越し苦労ならばよかったが、残念ながら予感は的中し、状況に変化は現れた。
ツクシの髪が輝き、ふわりと浮かび上がっているのは、彼女の体から何かが発せられているからだろう。
体を覆うような光は、いつもの魔法の輝きだけではなかった。
あれがスライムソウルーーーついに俺にも見えるようになったか。
俺は悟りつつギリッと奥歯を噛みしめた。
更にスライム達からオーラのようなものが立ち上って、ツクシに集中していく光景はあまりにも美しい。
俺は急いでスーツを纏ったものの、顔全体に皺をよせつつ思った。
ここに乱入するのは無粋すぎる!
「だが……すまん! あえてやる!」
ようするに先に敵を倒せばいい!
これ以上目の前で差をつけられてなるものかと、焦りで空気を読まなかった俺は、しかし天罰が下った。
「うおおおお!」
「!」
ツクシが吼え、輝きが最高潮に達した時、俺の視界が真っ白になったのだ。
なんだかもうすごい輝きで俺の目は潰れ、余波だけで吹っ飛ばされた。
気が付けば地面に転がっていた俺はあまりの眩しさに転げまわった。
「ぬおおおお! 目が! めがーーー!」
焦って血眼になっていたのが完全に裏目に出た。
脳みそまでチカチカしているような気がするが、周囲はやけに静かだった。
まぁ目があるのは俺だけっぽいから無理もないが、静けさの理由は別にある。
ゆっくりと俺の視力が戻ると、ここにいる全員が動きを止めて皆ツクシを見ていた。
俺は間に合わなかったらしい。
ツクシのバックパックの上部がパコンと勢いよく開く。
そして上空に打ち出されるように飛び出したグミ状の球体は、そのまま落下してきてツクシの頭の上に着地した。
「神・大復活ポヨ!」
「「「え?」」」
そこら中から上がったのは困惑の言葉だった。
俺は一体何を見ているのか?
ツクシの上のスライムらしきものは、見間違い出なければパワードスーツのバックパックから飛び出してきた。
「ちょっと……思ってたのと違ったな」
ツクシの頭の上でふんぞり返る、妙にかわいらしいスライムを見て、俺は茫然とししながらもちょっとほっとして呟いた。