ガムはおやつに入りますか?
「戦争ですか? それは穏やかではないですね」
「熾烈な戦いの真っ最中なのです」
赤いライムは、さらに赤くなってぴょんぴょんその場で跳ねていた。どうやら興奮しているらしい。
「奴らは、このスライムマウンテンを手に入れようと攻めてきました。そのたびになんとか撃退してきましたが相手はとても強いのです」
ライムはクッと悔しそうにも見える。
「それはいったいなにものなんです?」
ゴクリと喉を鳴らし、深刻そうなタカコが尋ねるとライムは飛び上がって俺の頭の上に着地した。
「敵の名はガムガム魔人! 伸縮自在の恐ろしい奴なのです!」
ババ―ンと音でもしそうな、語り口は、ライムの演出なのだろう。
頭に乗られたのもそうである。
「「……ガムガム魔人」」
なんかすごく気の抜ける名前だった。
俺とタカコは驚きと困惑の絶妙に入り混じった、似たような表情で、ハモッた。
「ガムときたか……お菓子しばりかな?」
「いえ。ガムはおやつとは認められません」
「そこどうでもいい気もするが?」
なんかガムがグミのところに攻めてくるってシュールな絵面が、戦争というパワーワードをいくらかマイルドにしてしまった。
俺の中のイメージは、もうキノコタケノコ戦争くらいに落ち着いてしまったわけだが、もちろん当人たちのしてみれば本気の生存競争だ。
ライムは俺の頭の上でプルプルと小刻みに震えているようだった。
どうでもいいことではあるが、スライムが頭の上に乗るって大丈夫なんだろうか?
ちょっと頭皮が心配だ。
「ガムガム魔人の主食は我々と同じ糖です。だからあいつらはこの山を我々から奪い取り、独占しようとしています。しかし我々の聖域をおいそれと無法者に明け渡すことなどできません。故に我々は断固とした態度で戦うつもりなのです!」
ライムの語り口は完全に演説だった。
そしてガムガム魔人はキシリトール配合ではないらしい。
かなり込み入った内容ではあるようだが、俺としてはこういう話は大好きだ。
貴重な戦闘経験値は逃さず行きたい。
まぁ、神様呼ばわりから入ってきたあたり、どうもスライムの方は利用する気満々という懸念はあるが、俺達の何かを見込んで頼むのなら、手を貸すのもいい。
「―――それは」
ここは一つ、自分から協力を申し出るチャンス。
という俺の決断は先を越されてしまった。
なぜならば、ここにはもう一人こういう展開が大好きな現役勇者がいたからである。
「それは許せんな! よし! 僕がそのガムだかゴムだかをやっつけよう!」
「本当ですか! さすが神様!」
「……」
流れるような参戦決定だった。
どうでもいいが、なんで神様なんだろうか?
完全に出だしを持っていかれた俺は、俺と頭の上から飛んで行ったライムと戯れるツクシを眺める。
「まぁ、結果的に思った通りだからいいけどな……」
そして俺は負け惜しみを呟いた。