カロリーの誘惑
「これ全部!? なんか……言われてみれば、砂糖っぽさあるな」
岩っぽいところは氷砂糖のようでもあるし、雪のようなところはまんま砂糖か。
不純物が少ないのか、見た感じそれは雪景色とかわらない。
だが俺はそれを聞いた女性陣の目が輝いたのを見逃さない。
まぁツクシは常にキラキラだったが、タカコの方はワクッっと目を見開いた後、心底難しい表情を浮かべ、天を仰ぐ葛藤っぷりである。
「どうした?」
「いえ……罪深い……罪深い土地だなと。甘いものに……飢えているのです。しかし加工前の氷砂糖にかじりつくのは乙女としてどうなのか?」
「それは……やめておいた方がいいかな?」
「加工前でもこの威力ですよ? 想像を絶するカロリーです」
「まぁ、そうだろうなぁ」
「食べるのは一瞬……しかし身についたものは中々なかったことにはなりません」
タカコは砂糖の山に一体何を見ているのか?
察するが、俺が気軽な気持ちで口を出したら、面倒なことになりそうだ。
しかし確かにこの量がお菓子になったらどうなるんだろうと、想像してしまうところは確かにある。
山のように積みあがるお菓子の山は、なるほどなんとも夢のある想像だった。
すでに走り回っているツクシが、また拾い食いしないように監視しつつ、俺は俺で想像の翼を広げてみた。
「ケーキとかは定番だよなぁ……キャンディとか、グミとか……」
「やめてください! 想像してしまいます!」
耳をふさぎ強烈に拒否するタカコには今のお菓子の羅列は強力な呪文のようである。
ちょっと楽しくなってきたが、大分小さくなっていたツクシが遠くの方からダッシュで駆け戻ってきている。
何事かと見ていると、手を振るツクシは何か叫んでいるようだった。
「大変だ! だいきち! 向こうからグミが大量にやってきてるぞ!」
「おいおい砂糖だからってグミまで? そんなバカなことあるわけが……」
そこまで言いかけた俺の視界には、色とりどりの跳ねるものが目に入る。
想像をそのまま形にしたようなそれは、ツクシの後ろから次々に現れ、どんどん増えてゆく。
するとタカコはそれを見て虚ろな目をして呟いた。
「まさか食べた過ぎて幻覚が? さすがにそこまで食いしん坊ではなかったと思うんですけど?」
「いや……アレは俺にも見えてる」
「だいきち! どうする!」
どうするって言われても。
だがあまりに現実感のない光景で反応が遅れてしまったが、視界を埋め尽くすほどの何かが雪崩のように迫ってくるのは、普通に危険なんじゃないだろうか?
あまりにも呑気に出て来た分析は、当り前で。ハッとした俺はワンテンポ遅れて叫んだ。
「た、退避!」
だがカラフルな雪崩はもう目の前である。
「ぬお!」
俺は悲鳴を上げたが、しかし、俺達は押しつぶされることもなくその場に立っていた。
カラフルなグミの雪崩は、俺達をきれいに避けて取り囲んでいたのだ。
「これは一体……」
「おお! すごいな!」
合流したツクシはファンシーな眺めを純粋に喜んでいたが、取り囲んでいるそいつらを間近に見て、俺はゾッとする。
カラフルだがこれはグミじゃない。
「……タカコ、ツクシ……動くなよ? こいつらはスライムだ」
そう、それは人間を捕食することもあるモンスターに酷似していたのだ。