責任の所在
暗い車内。
俺はトレーラのキッチンにて、苦い苦いコーヒーを入れる。
待ち時間のさなか、とある責任問題についてテラさんを問い詰めていた。
「……さて、ツクシに何をしたのか聞かせてもらおう……」
勇者ツクシが知らない間にパワーアップしていた。
しかもその方法がパワードスーツを着ているともなれば由々しき問題だった。
犯人はすぐそばにいる。
質問自体は予想していたのか、テラさんは白状し始めた。
『……了解しました。アレは―――』
テラさんの心なしか言いづらそうな説明によると、あまりに呼ばれないことにしびれを切らせたツクシのために、リッキー主導で簡易的なパワードスーツを製作したらしい。
よし、リッキーは後で泣かす。
「しかし……そもそもパワードスーツはツクシに張り合って探したみたいなところがあるわけでな? それを当の本人に丸っとプレゼントっていうのは……なんか違うと思うんだよ」
改めて言葉にすると自分で言っていて気恥ずかしいのだが、まぁ言いたいことはそのままだった。
するとテラさんは俺の文句を訂正してきた。
『まったく同じものではありません。装甲こそ旧バージョンを流用していますが、動力が違います』
「動力? エレクトロコアだろう? めっちゃ光ってたじゃないか?」
戦っているツクシの鎧から漏れ出た光は、エレクトロコアと似た輝きが発せられていると俺は思っていたのだが、テラさんは頑なに否定する。
『別物です。動力はスライムバッテリーの戦闘用です』
「すらいむばってりーのせんとうよう?」
聞きなれない響きの言葉だった。
しかしテラさんはやはりどこか誇らしげに、その戦闘用のスライムバッテリーとやらを自慢した。
『はい。万が一エレクトロコアが使用不能になった場合、新たなサブパワーとして開発製造しました。勇者ツクシのスーツにはメインの動力源としてこのスライムバッテリーを採用しています』
スライムバッテリーとは、かつて捕獲した蓄電能力を持つスライムを詰めたバッテリーの事だった。
研究を進め、安全性を高めて増やし、家電を動かす電力源として復旧させていたのだが、研究は更に進んでいたようだった。
「その割にはでたらめなパワーだったが……」
だがそれでも、実際戦ったツクシは今までよりはるかにパワーアップしていたのだが、そのあたりテラさんに尋ねると、微妙な間があった。
『……いえ、マスターの物より性能が数段劣るものだと断言できます。ただ―――』
「ただ、なんだよ?」
『勇者ツクシがでたらめなのです』
きっぱりとそう断言された一言は、かなり大雑把な返答だったが、俺は魂で理解できた。
勇者 春風 ツクシはでたらめなのである。
「身も蓋もない事を言うなぁ……」
『はい、私もそう思います』
テラさんは同意する。
しかし何でもかんでもツクシだからの一言で片づけると、俺はやるせない気持ちでいっぱいになった。
俺は苦々しく表情をゆがめる。
そしてひとまず入れた自分の分のコーヒーをズズッと飲み、膝を叩いた。
「……よしわかった。今回の件には俺も悪いところが沢山あった。そもそも捕まったのが情けない。迂闊にあいつらと一緒にいたのもまずかった。何よりツクシをいつまでも放っておいたのが最悪だ」
『その通りです』
「……」
そこを肯定されるときついところで合の手を入れるテラさんに、ぐっと言いたいことまで含めて、俺はきっちりすべての不満を飲み込んだ。
ツクシを放っておいたら、どうなるかわからない事なんて知っていたはずなのだ。
俺は起きてしまった事態を重く受け止めて、一歩踏み出す勇気を奮い立たせる。
「よし! 今日も頑張るぞ!」
そう締めくくり、キャンピングカーの外に出る。
「おっすダイキチ! 何やってたんだ?」
「あ、ダイキチさん。お先に朝ご飯いただいてます」
するとそこにはタカコに作ってもらった朝食のパンと卵焼きをペロンと頬張るツクシの姿があって、俺はいきなり膝から崩れそうになった。