勝てない敵に挑む者達
「ふ、ふははははは! 勝った……勝ったな!」
完全にフレーズしていた俺の頭を、動かしたのはキョウジの高笑いだった。
いったいどうしてそんなに勝ち誇っているのか、信じられずにキョウジを見ると、彼は俺が戦っている間にモンスター軍団を編成し直して、戦える状態に立て直しているようだった。
「おい、いったい何を……」
「勝敗は決しましたね! 炎の魔人よ! 飛ぶ拳も炎もその男には効かなかったようだ! さぁどうするのです!」
何でこの男はそうまでいい顔でフラグを立てたがるのだろうか?
だが、確かに一見するとキョウジの言うようにシャリオお嬢様の主要武器は悉く無効化されて、腕が飛んで行った結果、無くなっている姿は優勢にも見えた。
シャリオお嬢様は悔しそうに表情をしかめているのも確かである。
キョウジはさっと手をかざしてモンスターを操り、現れた助っ人の方を取り囲み始めていて、俺はゾッと全身に鳥肌が立った。
「さぁ君! そこの炎の魔人にさっさととどめを刺すのです! こっちのよくわからないちんちくりんのおもちゃみたいなのは、私に任せて!」
「む」
その言葉は確実に新たに現れた、謎の人物に向けられたものだった。
その人物の着ているパワードスーツは確かにかっこいいものなのだが、小柄な人物様に仕立て直されていた。
ただ不満そうなたった一言の‘む’は、俺には死の宣告にしか聞こえない。
せめてもの情けで、俺はキョウジを止めようとする。
「違う……違うぞ! やめるんだキョウジ氏!」
だが俺の控えめな制止は耳に届くことなく、キョウジは命令を下してしまった。
「さぁ! そこのちんちくりんを捻り潰してタカコを探すのです!」
そして単純な悪口はこのお子様に良く効いた。
「誰が……ちんちくりんかー!」
ツクシが両手を突き上げ吼えると、その背中から、見慣れた光が強い光を発して唸り始めた。
俺はそれを見てヒクリと顔をゆがませる。
その光は俺のパワードスーツの動力源。エレクトロコアの輝きに酷似していたのだ。
そして向けられるモンスター達からの殺気に反応して、ツクシは動き出す。
「ふん!」
無造作に振るわれた聖剣の閃きは一撃でモンスターの群れを薙ぎ払った。
「ほへ?」
気の抜けた、間抜けな声をキョウジが漏らした時には、もう全部終わった後だ。
金属の装甲など、勇者の聖剣の前には紙切れと同じだった。
更に言うなら、大人サイズに成長を遂げたツクシの魔法は、その衣類にすら作用するらしい。
大人のサイズに成長したパワードスーツは、聖剣に負けない輝きを放っていて、ツクシ自身のプレッシャーを何倍にも跳ね上げる。
そんな相手から凄みを効かされたらたまらない。ましてその相手は、今モンスターを一薙ぎで葬ったとなればなおさらだった。
「ちんちくりんじゃない……聖剣仮面だ」
「…………ハイ」
キョウジの牙が一瞬で抜かれたのと同様に、俺も思わず膝が震えてくる。
とてもじゃないが今アレと敵対したら、完全に死んでしまう。
調子に乗って、スーツを黒くなんて塗るんじゃなかった。
今の俺はどちらかといえば、今真っ二つになって転がっているモンスター寄りの存在だった。
勇者を超える、今日こそ白黒つけてやるぜ! なんてこの間コテンパンにされたばかりなのにいえるはずもなく。
俺は万事休すだった。
そんなもはや心は敗北していた俺達にも、助けはやって来る。
「お前達……なさけないのぅ。わしが手を貸してやろうか!」
地震が起こり地面を砕いて地底から現れた、巨大な金属の怪獣は、手のひらに小型のUFOをもっていた。
「「ドクターダイス!」」
「その通り!」
ドクターダイスがUFOに乗ったまま何かのボタンを押すと死んだはずのモンスター達が一斉に動き出す。
そして怪獣の体に飛び込み、粘土のようにその体に吸収されるたび、怪獣は更に体積を増していった。
「ヒョヒョッヒョッヒョッ! お前達! 助けに来てやったぞい! これぞ天然の金属生命体! 大怪獣メタレックスじゃい! さぁどっからでもかかってこんかい!」
「だめだ! ドクターダイス! 俺達のことはいいから逃げろ!」
俺は力いっぱい叫ぶが、大怪獣の鳴き声に俺の声は無情にもかき消された。
大怪獣は大いに結構だが、そいつは異世界人の琴線に触れすぎている。
「オッホー! 怪獣だな? 怪獣だな!」
さっそく興味を持たれて、興奮しだしたツクシがぴょんぴょこその場で跳ねていた。
そして俺達が完全に呆けている間に、シャリオお嬢様の手に飛んで行った手が戻ってきてガチョンと収まった。
「何が何だかわかりませんが、気に食いませんわね……ですが、これで終わりと思わないことです!」
双方ベクトルは違うが大いに興奮していた。
なぜか人間と怪獣というありえないほど戦力差がある存在が対峙しているというのに、俺には怪獣が勝てるビジョンが見えない。
だが唯一希望があるとすれば、怪獣は視線を集めるのに申し分ないインパクトがあり、俺から注意は完全にそれているということだろう。
「なんか……スマン」
俺は誰に謝っているのか。それは俺にも分からない。
逃げる大チャンスである、だがここで逃げるのは何か違う気がして、俺はやけくそ気味に叫んでいた。
「ち、ちくしょう! やってやる! やってやるぞ!」
果敢に躍りかかる今日の俺は黒い戦士。
ドクターダイスはこういう時のために用意していた物を出し惜しみなく投入し、キョウジはとりあえず手を突き上げて応援の構えだ。
この瞬間俺は、いや、俺達は立派な悪の一味だった。