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思いもよらない裏切り

「観念なさいませ! 大丈夫です! 貴方の丈夫さはよく知るところですが、この拳、届かせて見せます!」


 届いたら最悪、主に俺があの世に手が届きそうな拳だが、甘んじて受けねばならないだろうか?


 だがルートとしては、一発貰うのは悪くはないのが悩みどころである。


 例えば俺がいい一発をもらい、目をくらまして逃亡する。


 そして後になって脱出し、あの一発が目覚めるきっかけになったとか言ってもいいわけだ。


 悪くないが、あの一発をもろにか……かなりおっかない。


 パワードスーツに自信がないわけではない。


 ただ万が一億が一、こんな茶番で死にたくないというだけだ。


 だが本気の戦闘で、この思い切りの違いは結構致命的になるかもしれない。


 そしてダメージを受けて、向こうに手ごたえがあったと確信させる一撃ではならないというのも曲者だった。


 ものすごく悩んだが心は決まる。


 俺はその場で逃げるのをやめて手招きし、シャリオお嬢様を挑発した。


「……打ってこい」


「……それはどういう意味です?」


 シャリオお嬢様は警戒しているようだったが、話は簡単だった。


「お前の攻撃に興味が沸いた。俺を仕留められるというのなら―――やってみるがいい」


 南無阿弥陀仏! 俺は念仏を心の中で唱えた。


 そして深く一回だけ呼吸をして、動きを止めた巨大な鎧を見上げる。


 逃げ回ったところで意味はない。ならば正面から受けて立つというのが俺の結論である。


「それは、好都合なお話ですが。いささか迂闊ですわね」


 シャリオお嬢様の言葉に侮りに対するわずかな怒気を感じ取る。


 挑発は成功のようだが、もはや後には引けないらしい。


「やめなさい! 馬鹿! 死にますよ!」


 キョウジが騒いでいた。


 実はいい奴なんじゃないかと思えてきたが、もうこれ以上はかばう余裕はなかった。


「では……目を覚まして差し上げましょう」


「来い!」


 シャリオお嬢様の鎧が赤く輝きだし、その背中から火を噴いて上昇を始める。


 普通に飛ぶのか……。


 俺は鎧の中で絶句する。


 十分に距離を取ったシャリオお嬢様は空中で右腕を突き出して―――。


「食らいなさい! スチーム! インパクト!」


 炎を吹き出して、右手は撃ち出された。


 それは空飛ぶ拳……いや、もうこれは完全に!


「テラさんん!」


『プランは過去に提出されたものです』


 責任を一手に押し付けられた!?


 おおよそ間違っていないが、完成品が自分に飛んでくるのはさすがに想定外だった。


 だがこれだけの攻撃、逃げるわけにはいかない。


 別の意味で気合が入った俺は、飛んできた拳を真っ正面から受け止める。


「ぬおおおおお!!!!」


 俺は裂ぱくの気合を込めて両手を突き出した。


 エレクトロコアは激しくスパークしパワードスーツを激しく震わせる。


 それでようやく飛んできた拳を受け止めたが、とんでもない重さの一撃だった。


 その上、受け止めた右腕は更にもう一段階猛烈な炎を吹き出し始めて、回転までし始めたからたまらない。


 激しい火花が手のひらで弾けていたが、俺は力でそれを抑え込んだ。


「……!」


 だがそれでも拳は止まらず、体が徐々に押されてゆく。


 強力無比なロケットパンチは、更に輝き始めた。


 やはりそうなるだろうと予想はしたが、歓迎は出来ない。


 俺の体が、完全に地面から離れ吹き飛んだ。


 同時に拳の輝きは限界に達し、大爆発を引き起こす。


「どうです! これなら!」


 シャリオお嬢様の叫びを聞きながら、俺は爆炎の中から落下しそして着地して見せた。


 全身から煙を吹き出していたがまだ生きている。


『外付けの装甲はひしゃげましたが、機能に問題はありません。しかしマスターの身体に外傷が多数』


 テラさんの簡潔な報告は俺が一番わかっていた。


「……見事だ」


 そうシャリオお嬢様を称賛しつつ、俺は勝利を噛みしめた。


 内心かなり冷や汗もので体中痛いが、許容範囲だろう。


 後は逃げるなりなんなりすればいいとほっとしていたのだが―――悪夢はまだ終わらなかったのだ。


「わっはっはっは! 待て待て待てぇい!」


 どこか間の抜けた声を上げて、更なる乱入者は、どこからともなく現れた。


 だがその声を聴いた瞬間に俺は凍り付き、全身の危機感知センサーが警鐘を鳴らしていた。


 キラリと光る純白の鎧に身を包み、聖剣を携えた何者かは空から降ってやって来る。


 俺はそこで初めて、とても俺のパワードスーツに似ているデザインの鎧に身を包んだ戦士を目撃する。


 戦士は戦場に乱入するなり、俺とシャリオお嬢様との間に割り込むと、俺に剣を向けて来た。


 ちなみに俺はその剣をすごく見たことがあったわけだ。


「よぉしお前が敵だな! この聖剣仮面が来たからには貴様の悪事も一刀両断だ!」


 シャキーンと音でもしそうなキメ台詞とポーズに眩暈がした。


 っていうか聖剣仮面って、隠す気あるのかってくらいのあけっぴろげ具合だった。


 俺はしばらくこの怒涛の展開に意識を飛ばしかけていたが、器用に小声で押し殺すように叫んだ。


「テラさんんんんんん!?」


『……マスターが悪いのです。ドクターダイスなどと手を組むから』


 この瞬間、今日のテラさんは敵だったのだと俺は確信した。


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