シャリオお嬢様の奥の手
「お、おお! 君ならやってくれると信じていましたよ! というか、ありがとうね! ホント死ぬかと思った!」
半泣きで縋り付くキョウジはともかく、ちょっと尋常ではない勢いで燃えはじめたシャリオお嬢様はやる気満々である。
本当に助けてくれる気なんですよね? っと思わず念を押したくなる火力は、何か心に火が付いたのか、さっき暴走していた時よりもかなり高火力だった。
さて、どうやって無力化するか。
怪我をさせずにそうする難易度は高い。だが、防御力には俺も定評があった。
おそらくシャリオお嬢様の全力を俺のパワードスーツは耐えきれる。
ならばパワー面でも勝るこちらが、優位に事を運ぶこともできるはずである。
だがここでまだ震えの残っているキョウジが、助けが入ったことで余裕が生まれたのか俺に助言をしてきた。
「おい! 油断するなよ! その火を出す魔人はまだ真の力を隠しているぞ!」
……何それ? 真の力とか大げさな。
何を言い出すんだと、その言葉を流しかけた俺はシャリオお嬢様がおもむろに右手を上げ、指を鳴らすのを目撃した。
「ご安心くださいな。こんなこともあろうかと、備えは万全ですので」
何やら不吉なことを言いながらにっこり微笑むシャリオお嬢様の背後で、あの魔改造された乗り物が、ドカンと火を噴く。
そして高く射出された何かは真っすぐシャリオお嬢様に向かって放物線を描いて飛んできた。
「とう!」
そしてシャリオお嬢様もまた飛び上がる。
意味が分からない。
炎が尾を引き、打ち上げ花火さながらに飛んで行ったシャリオお嬢様は射出物に衝突し、爆発した。
「えぇ?」
モクモクと黒煙が上空で広がり、俺は首をかしげた。
「!」
直後、ガンとやたら重い音を立てて地面に舞い戻ったシャリオお嬢様は無骨な装甲を身に纏い、全身から真っ白な蒸気を吹き出した。
「かつて―――貴方が打倒した蒸気王の鎧を改修させていただきました。これならばパワーにおいても後れを取ることはありませんわ!」
「なるほど……これは真の力だわ」
シャリオお嬢様のパワーアップが止まらない。
直感的に、この仕事が誰のモノであるのか俺は一瞬で理解した。
「……テラさん? これは丸投げしてたあれか? ひょっとしてパワーアップした?」
『……メモリーにございません』
しらばっくれやがったこのAI!
蒸気王の時から尋常ではなかったゲテモノは、更なるアップデートが施されていた。
巨体はそのままに、造形は洗練され、ところどころにパワードスーツの技術も使われていそうである。
こんなもの扱えるのは、テラさんと、悪だくみが得意な一団しかちょっと心当たりはない。
だが詮索している暇はなかった。
「さて、始めましょうか―――」
ゴォンと鐘の鳴るような音を立てて動き始めたシャリオお嬢様を俺は完全に見上げる格好になる。
開戦の合図は俺を叩き潰すように頭の上から降って来た。
「ぬお!」
シャリオお嬢様の合体に呆けていてタイミングは遅れたが、何とかかわす。
巨体に似合わない素早い動きから振り下ろされた拳は地面に触れた瞬間、地雷でも埋まっていたみたいに爆発した。
炎が放射状にまき散らされて、衝撃は地面の表層を引っぺがす。
爆心地のシャリオお嬢様は、当然のように傷一つなく炎の中からこちらを見ていた。
炎の魔法は健在か。
蒸気王の鎧は熱に抜群に強かったことを思い出す。
あの鎧に入っていても、魔法は自在に扱えると思った方がよさそうだ。
更にパワーも初期のパワードスーツを上回り、大きな質量の攻撃はシャリオお嬢様の破壊力を何倍にも高めているように見えた。