作戦失敗
「……くっ! ひょっとしてと思っていたのに! 何の役にも立たないじゃないですか!」
炎の爆撃によって、モンスター達が次々と蹂躙されてゆく悪夢めいた状況の中、キョウジの余裕はすさまじい勢いで粉砕されていた。
まだプライドでどうにか踏みとどまっているようだが、その腰は完全に引けている。
「……」
俺はそんな彼を少々後方から見ているわけだが、なんというか、ちょっとかわいそうになって来た。
少なくとももう背後から一撃するのはためらわれるわけだが、俺だってそんなこと言っていられる状況じゃないと悟ったのは、彼女がその姿を現した時だった。
戦場を悠然と、燃え上がりながら散歩のように歩く赤髪の女騎士は、瞬き一つせず、前だけ凝視していた。
「キシャアア!」
襲い掛かったモンスターの一体、リザードマンが顔面を掴まれ、地面に叩き潰される。
その瞬間に迸る炎は真っ白な閃光の様で、勝負は一瞬で決した。
「……そこをどきなさい」
なんだか素手のパワーも尋常じゃないくらいに上がっていた。
潰されたモンスターは金属の装甲が柔らかくなった飴みたいに曲がっている。
まだ後方にいた俺はロックオンされてはいないようだが、かなり恐ろしい。
そしてロックオンされたキョウジに一歩一歩近づいてくるシャリオお嬢様は、冷静さを欠いているようにも見えた。
「ここで待ち構えていたのは正解だったようですわね……観念してあの方をお渡しなさい」
「ひぃ!」
追い詰められたキョウジは更に二体、モンスターをけしかけた。
今度は見るからにパワータイプのごつい奴と、すらっとした速い奴である。
やはり人型なのにはマッドサイエンティストの闇を感じたが、そんなこだわりも暴力的な炎の前に、触れることもできずに溶け落ちてしまった。
「あ、あわわわわ……」
金属にしたの失敗だったのではないだろうか?
普通金属はあんなに簡単に溶けるものじゃないと思うのだが、どうだろう?
どろりと溶けた液体を浴び、瞬きせずに立っているシャリオお嬢様は壮絶だった。
恐怖しかない光景に、キョウジは尻もちをついて言葉になっていない声を上げていたが、シャリオお嬢様に容赦はなかった。
「もう一度言います。あの方をお渡しなさい。白い鎧を着たあの方です。そうすれば命だけは助けて差し上げましょう」
なるほど、俺は今、捕らわれている感じなのか。
今まで連絡していなかったのだから、そう思われても仕方がない。
そしてシャリオお嬢様は俺を助け出そうとしてくれている感じらしい。
「……それはそれで気まずいな」
俺は出て行くタイミングを完全に逸して、すごく困った。
こう、隙をつくために潜入してましたよ? っと言えるタイミングは失ってしまった上に、鎧は黒く塗ってノリノリである。
「し、知らない! 私は知りませんよ!」
そして本当に知らないキョウジが今にもとどめを刺されようとしている姿は、俺的に見ていられなかった。
咄嗟に身体は動く。
「! 貴方は!」
キョウジとシャリオお嬢様の間に割って飛び込んだ俺は、キョウジを救い出し、驚きの表情を浮かべるシャリオお嬢様から距離を取る。
やった後に襲ってきたのは腹の底にズンと響く後悔だった。
「……とっさにやってしまった」
すごく小声で漏らす俺は、立ち尽くすシャリオお嬢様を警戒した。
やってしまったものは仕方がない。この後は怒れるシャリオお嬢様をどうにかやり過ごさなければんあらないわけだが、シャリオお嬢様は襲って来ない。
「……なるほど、そう言うことですか」
そしてシャリオお嬢様こちらをしばらくじっと見ていたが、痛ましそうに表情をしかめて言い放つ。
「なんと痛ましい姿なのでしょう! 洗脳というやつですわね……今度こそこのわたくしが正気に戻して差し上げますわ!」
「……」
なるほど! そう言う感じか!
洗脳はシャリオお嬢様の感じ違いではあるのだが、俺はその勘違いに唯一の活路を見た。
だからこそ、俺はこの身のうちに眠る悪党の魂を奮い立たせた。
「くっくっくっ……止められるものなら止てみるがいい」
「望むところです! 覚悟なさい!」
苦悩しつつも、なぜかやる気が炎と共に迸っているシャリオお嬢様は気になったがもう後には引けない。
俺は目の前の炎の化身に挑む決心を固めていた。