燃える女騎士
謎の乗り物の甲板から飛び降りた女性は、メラメラと燃え上がりながら、ふわりと地上に着地する。
これが魔法かと目の前で見た不可思議な現象に息を飲んだタカコだったが、すぐに正気に戻って、立ち上がった。
「わたくしの名はシャリオ=メルトリンデ。白い戦士をご存じありませんか?」
シャリオと名乗った女性はタカコに問う。
口調は厳しいもので、心当たりのないタカコは困惑しながらも答えた。
「……ええっと、それだけでは何とも。その白い戦士さんのお名前は?」
「……名前は知りませんわ」
「えぇ……」
つい声に出すとピクンとシャリオの形の良い眉毛が上がる。
ヤバい! と思ったが、何とか怒りの導火線に火は点かなかったようで、シャリオは噛み含めるように、説明を続けた。
「とにかく白い鎧を全身に纏ったとても強いお方です。……それから首に真っ赤なマフラーを巻いています」
おおよそタカコの知るダイキチの鎧と特徴は似ていた。
あれだけインパクトのある鎧である、タカコは間違いないだろうと頷いた。
「な、なるほど……そういう方なら、心当たりはありますけれど」
だがそう答えると、シャリオの死線の鋭さがより鋭利な物へと変化した。
「それはあるでしょう。先日貴女と一緒にいたあのお方ですよ」
「……ええっと、知っていたんですか?」
知っていて尋ねるあたりに危険を感じ、タカコは一歩後ずさる。
しかしボンと燃え上がった蛇のような炎がタカコの行く手を遮った。
「……えぇ」
「当然でしょう。あの方がどこにいるのか知っているかと尋ねているのです。そして貴女とあの方はどのような関係なのか、その辺りはっきり説明していただけますか?」
後半がやたら力が入っているシャリオに、タカコはヒィ!っと内心で恐怖した。
気のせいではなく殺気がこもっている。
だが恐怖すると同時に、長年使用不能で、半ば存在するのか疑っていた女子センサーにピンとくるものがあった。
これは「白い戦士」にこの人は好意を持っているんじゃないかと。
とすれば、現状を正直に話した上で、恋愛感情など全く感じさせないように言葉を選べばいい。
誤解されないように事実を、ありのままに伝えるというのは存外難しいが、今はやるしかなかった。
更に女子センサーは絶好調の様で、本名は知らないていで行くのがベストであると瞬時にはじき出した。
「実は白い戦士さんには危ないところを助けていただきまして、今は私の姉の捜索に力を貸してくださっています。とても感謝していますよ。はい」
さりげなく持ち上げつつそう語ると、眉間にしわが寄っているが、若干シャリオの機嫌が直っているのを感じた。
「……お姉さん、ですか? なるほど……あの方なら、困っている女性を放っておいたりはしないでしょう。それで? 今あの方は?」
いったん安心すると冷静さを取り戻したシャリオの質問は優先順位が変わったのだが、こっちはこっちで答え質問だとタカコは頭を抱える。
だが話さないわけにはいかず、慎重に口を開いた。
「そ、それが……」
「それが?」
「数日前から行方をくらましていまして……この辺りにはいると思うんですが、何かあったのかもしれません」
タカコは隠すことなく語ったのだが、クワッと目を大きく見開いたシャリオはガシッとタカコの肩を掴むと激しくゆすり始めた。
「何ですって! 」
「いたいです……いたいです……っていうかアッツ! 落ち着いてください!」
それどころか燃え上がり始めたシャリオをなだめるのに、タカコは相当の時間を要した。