その頃タカコは
「どこに行ったんでしょうねぇ……いきなり行方不明とか、そんなことってあるんですかね?」
ダイキチが「声が聞こえる!」なんて言いながら颯爽と飛び出して行って2日。タカコはダイキチを探しつつ、この周囲の探索を続けていた。
キャンピングカーのおかげで、生活に不自由はなく。モンスターもこの辺りは極端に少ない。
慎重に行動すれば、タカコ一人でも問題なく過ごすことができた。
簡易的な椅子に座り、朝食のトーストをかじりながら、タカコは手元のペンダントからコンソールを呼び出して立体映像のディスプレイを眺めた。
「うーん、地下に転移者がいることは間違いないのに入口が見当たらない。というかたぶんダイキチさんもそこにいますよね?」
何をやっているのかまではわからないが、確かにそこにいる。
ひょっとすると相手が悪党で、捕まってしまったのかもしれない。
「となると……どうあがいても助け出すのは無理だ。ダイキチさんが勝てない相手に勝てるわけがないんですよね」
タカコに出来るのはやり過ごすことだけだ。このペンダントがあればそれは比較的容易にできた。
手に余る相手を判断し、接触前に回避できる。
世界移動の応用で狭い範囲でなら転移も可能で、死にさえしなければ逃げることだけならいつでもできるだろう。
だがそれは逃げに徹した優位性である。
例えば今のように、うっかり仲良くなった人を助け出したり、持ち物を盗まれて取り返したい場合、タカコに出来ることは普通の人間と変わりがなかった。
「打つ手がないんですよ……すみませんダイキチさん。ここは涙を呑んで見捨てるしかないんですけど……もったいないので車はもらっちゃっていいでしょうか?」
タカコは天に祈りを捧げつつ、ゲスい望みを口にした。
いや、このまま放置していると、車とかってすぐにダメになるというし、移動に足がなければすぐに死んでしまう。
ただ良心が待ったをかけて悩んでいると、遠くから地鳴りの様な音が聞こえて来て、タカコは周囲を見渡した。
「……地震でしょうか? いやですね」
そして遠くに上がる土煙に気が付く。
土煙はどんどん大きくなって、なんだかすさまじいものがこちらにまっすぐ近づいてきていた。
タカコは慌てて座っていた体勢から腰を上げた。
「な、なんですかあれは!」
そうは言ったが、迫って来る物体に全く見覚えがないわけではなかった。
ジェットのような炎を推進力に、地上を走る船である。
ただ車輪はドリルで、あらゆるものを踏み潰して進むデストロイな代物だ。
逃げ出したくて仕方がないが、残念ながら逃げ場はなく。
更に残念なことにアレが目指す先はピタリと自分のようだった。
「はわわわわ……」
どうしようと右往左往していると、目の前でドリフトを決めた謎の船は地面を削りながら止まる。
腰を抜かしてタカコが座り込んでいると、その船の甲板に鎧を着た女性が出て来て、炎のように赤い髪をなびかせていた。
「そこの貴女! 少し話を聞かせていただいてよろしいかしら!」
「ひゃひゃい!」
反射的に背筋を伸ばし返事をしたタカコは、突如現れた女騎士に白旗を上げた。