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後の祭り

 俺はドクターダイスにあてがわれた部屋で、シュッシュとパワードスーツを黒く塗っていた。


 借りたスプレーガンの具合はよく、塗装する部屋まであるとは驚きである。


「なんだか至れり尽くせりだよな。どうやってこんな施設を作ったんだか」


『土の精霊を使ったのでしょう。前回の研究施設も同じくそうだったようです』


 鼻歌を歌う俺にテラさんはブレスレットから考察を伝えてくれる。


 俺は確かに前に会った時もドクターダイスは立派な基地を持っていたことを思い出していた。


「なるほどなぁ。ノウハウは健在ってことか……こればっかりはうらやましいなぁ」


 ドクターダイスの新しい基地はどこも新品同様で、つい愚痴がこぼれてしまう。


 俺の基地もリフォームとかしてくれないだろうか?


 地下から発掘していることもあって、俺の地下秘密基地はどうしても中古物件感がぬぐえないのはちょっと悩んでいたりするんだけど。


 しょうもないことを考えていると、テラさんは俺に質問してきた。


『よく協力を承諾しましたね。新たな技術を得ることは有益ですが、マスターの行動理念からすると二人に協力するとは思っていませんでしたが?』


 不思議そうなテラさんだが、俺だって何でこうなったのかと首をかしげているところはある。


 色々な要因が重なった末にこうなっただけだ。


 だが、様子を見るという意味では今の状況は悪くはなかった。


「ああ。色々と理由はあるけど、あいつらはそばで見ていた方がやりやすいと思って。車はタカコのところにあるからそう簡単にはやられないだろう?」


『肯定します』


 テラさんが守りについていれば大抵の事には対応できる。


「それに、悪党の片棒を担ぐと言っても……結局のところあの二人だからなぁ。まぁ大丈夫じゃないか?」


『やや軽率な発言に思えます』


「そう?」


 結局は今までの経緯から、ドクターダイスとキョウジの二人を甘く見ていた俺である。


 警戒は必要だが、警戒しすぎる必要はないと俺はたかをくくっていた。




 だが俺は油断しすぎていたらしい。


 その後、呼び集められた先でいきなりそれを痛感してしまった。


「では戦力の充実を図る前に、わしの研究をお見せしよう!」


 それはただの自慢だったのだろう。


 だがドクターダイスに連れてこられた先にあったのは何ともおぞましい光景だった。


 重い扉がいくつも開き、中から出て来たのは檻に入れられたおびただしい数のモンスターだったのだ。


 だがただのモンスターじゃない。


 どいつもこいつも白目をむき、鎖につながれたまま暴れ続けているモンスター達はどうみても正気ではなかった。


 俺はなぜかその体の一部が、不自然に鉱物で覆われていることに気が付いた。


「……なんだこいつら?」


 唖然としていた俺にドクターダイスは不敵に笑い、檻のモンスター達を案内した。


「この辺り一帯にいたモンスターじゃよ。実はわし、ここで不思議な生命体を発見してなぁ。今はそいつの研究をしておった」


「……あの体の石みたいなのに関係あるのか?」


 改造されたモンスターに顔をしかめて尋ねると、ドクターダイスの目は輝いた。


「おお! 気が付いたか! そうなんじゃよ! 実は面白い鉱物生命体を見つけてな! ちょいといじくりまわしてモンスターに埋め込んだが、今一うまくいっとらん」


「うまくいってないのかよ」


 後半は無念そうに、暴れるモンスターを見上げているあたりその実験の被害者がここにつながれている大量のモンスター達のようである。


 まさにマッドサイエンティストな所業に俺は大いに引いていた。


「……何でそんなことを?」


「体に埋め込んだ鉱物が武器やら防具やらに変形したらかっちょええじゃろう?」


「……」


 埋め込む必要があるのだろうか? 


 俺は単純に疑問を持ったが、一方でキョウジふむふむと頷き、モンスター達を眺めていた。


「何が問題なんですか?」


「拒絶反応と制御じゃな。鉱物生命体は鉱物と生物両方の性質を持っとるから、繋ぎとして機能させたんじゃが。浸食させると凶暴化するんじゃよな」


「ほぅ……これだけ無茶をして、生きているんですから上出来ではないですか」


「まぁそうじゃけどな! でも暴れるだけじゃあんまり役には立たんでな」


 こればかりはどうにもと肩をすくめるダイスだったが、キョウジはおもむろに檻の一つに近づくとにたりと笑っていた。


「ならば、そこは私がどうにかしましょうか」


 ぱちんと無造作に指を鳴らす、キョウジの周囲で何か粒子のようなものが光って見えた気がした。


 そして次の瞬間、あれだけ暴れていたモンスターがぴたりと止まり、キョウジの前に跪く。


 俺もダイスも驚愕していたが、キョウジは満足げに頷き、モンスターの頭に手を添えて見せた。


「生物の調整は私のナノマシンの最も得意とするところですのでね」


「おお! やるじゃないかお前さん!」


 ダイスは興奮してキョウジに詰め寄る。


 実際ナノマシンとやらの効果はすさまじいものだった。


 そういえば出会った時は、ゴーレムなんて生きているのかも定かではないものすら操っていた気がする。


 やることはすごいがわりとずっこけ博士だと思っていたダイスと偉そうだが若干小物感が先行していたキョウジの働きに、実はこの二人が揃うとすごく厄介な存在なんじゃないだろうかと、俺は背中に汗をかいた。


「……」


 これは、なんか思っていたより大ごとになってきた。


 俺はついさっきの自分の発言をさっそく改めざるを得なかった。


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