キョウジは気づかない
おかしいと、そう感じたのはキョウジと言葉を交わした時だった。
「君が何者かは知らないが、よろしく頼みますよ」
そう言ってキョウジが俺に話しかけてきたのだ。
俺はパワードスーツを装着していた。
そんな俺を目の前にして、まるで初対面のような反応をするキョウジの態度は明らかにおかしい。
「……いったいなにが?」
我ながら、中々インパクトのある外見だと思うのだが、この忘れっぷりはいくら何でも不自然だ。
「……ちょっとすみません」
これは何かあったに違いない。
キョウジに一言断り、俺はぼろを出す前に、単刀直入に原因に話を聞くことにした。
「ドクターさぁ……あんたキョウジ氏に何かしただろう?」
するとドクターダイスは明後日の方を向いて口笛を吹き始めた。
「わざとらしすぎる。隠す気あるのか?」
「そんなもんないわい。大したことはしとらんよ? ただお前さんのことは、別の何かに見えるようにちょいと細工しただけじゃ。鉢合わせるとまずいんじゃろ?」
「……いじっちゃったのかー」
ダイス的には気を使ったということなんだろうが、気の使い方の方向がマッドサイエンティストだった。
俺にしてみたらとても都合がいい。都合がいいが、こう……人として踏み込んではいけない部分に踏み込んでいること間違いなしだった。
コソコソ話をしていると、キョウジは怪訝そうにしていたが、さして興味もなかったのかさっそくいつもの感じになっていた。
「まぁ、短いつきあいになるとおもいますがね。精々利用して差し上げますよ。感謝することですね」
だが初対面と思い込んでいる相手にここまで強気に行けるのはある意味では尊敬してしまう。
「……まぁいいか別に」
なんかどうでもよくなってきたが、このままいくと、とてもまずいことに遅ればせながら気が付いていた。
「あ、そうか。このままいくと俺、タカコを襲う流れになってないか?」
現在タカコは一人でキャンプの真っ最中だろう。
俺はついつい勢いで飛び出してしまって、誘拐されたから、今頃そろそろおかしいと思っているころかもしれない。
少しばかり焦ったが、俺はすぐに考え直した。
「……まぁ騒ぎ立てた方がまずいか」
少なくともここに注意すべき危険人物たちは集まっている。
こっそり脱出して合流するよりも、ここでこいつらを見張っていた方が安全性は高い気がした。
キョウジはともかくダイスはやばいのだ。
一見面白い爺さんだが、研究対象に興味を持ったら本気で手段を択ばない。
良い悪いは別として、何が起こるかわからず、手に負えない可能性も大いにあるのは笑えなかった。
「……まぁ、悪役ごっこにちょっと付き合って安全に合流か。でも会うのは気まずいなぁ。あとでペンキでスーツに色でも塗るかな?」
『マスター……楽しみすぎるのは感心しません』
ぼそりと耳元で聞こえたテラさんのツッコミに驚くが俺は楽しんでなんかいない。
「……いや? そんなことないよ? 不謹慎じゃん?」
『無自覚ですか?』
テラさんと言っていることはちょっと意味が分からなかったが、パワードスーツの色は赤と黒で悪堕ちっぽくしてみようってそう思った。




