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悪役のこだわりに感心する俺

 ひとまず俺とドクターダイスはキョウジの寝かされている実験室の中に入る。


 実験用ベッドに拘束されたキョウジは突然叫び声をあげた。


「にぎゃああああ!!」


 エビぞりになったキョウジに俺はビクリと身をすくませた。


「い、いったい何が?」


「おお、あやつ体の中に何か飼っておるようでな! いじくれそうだったんで見たい夢とか見れんかなと実験しておったんだ」


「うーむ……発想がファンシー。でもどう見ても悪夢見てるからやめてあげよう」


 ドクターダイスの実験を何とかやんわりと止めて、キョウジの救出には成功したが、しかしこれはどうしたものか?


 いかにも怪しいヘルメットを外すと白目をむいていたキョウジを眺めていると、また話がこじれる気がしないではなかった。




 怪しいヘルメットを外して一分後、キョウジの瞼が開く。


「……」


 キョウジは周囲にゆっくりと視線を動かした後、ダイスの顔を見て飛びのこうとした。


 まぁ革ベルトの拘束具でそれは失敗に終わったが。


「ぐっ! 貴方は……! 覚えていますよこのUFOじじい! これは一体どういうつもりです!」


「ヒョッヒョッヒョッ! なに……安全のためにやむなくじゃ。異世界人は何をしでかすかわからんからのぅ。お前さんに危害を加えるつもりはない」


 ドクターダイスは中々ニチャッとした悪役顔を浮かべているが、危害を加えるつもりがないなどとよく言えたものだとあきれてしまった。


「……」


 しかし今俺がキョウジ氏に何か言ったところでこじれる気しかしないので、俺は、ここは黙っていることに決めた。


 キョウジは相当目立つと思うのだが鎧姿の俺に気が付いた様子もないらしい。


「……貴方も異世界から来たのですか。どうにも不気味な技術を使うようですが」


「当然じゃろ? この世界はそういう連中がごろごろしておるぞ? まぁ無理もない、お前さんはまだこちらに来て日が浅いようじゃからなぁ」


「それはどうでしょうね? 貴方を見て驚かない程度には肝は座ってきましたが」


 椅子に縛り付けられていなければもう少し見栄えもしたかもしれないが、ふふんと笑う気障な笑みが板についているあたりさすがである。


 口調は余裕を見せていたが、今自分が崖っぷちにいることは自覚しているだろう。


 ダイスは、こちらはまぁ当然余裕を滲ませなぜか会話を続行していた。


「そっちの技術も実に興味深いぞ? ナノマシンというやつじゃろ? わしの世界ではいまいち発展しきっていない分野じゃったよ」


「フン。こちらの手の内はすべて把握済みというわけですか」


「いやいや。そう簡単に行くものではあるまい? だからこそこうして話す機会を作っておるわけじゃしな」


 なるほど、キョウジ氏はナノマシンとか使うのか。


 確かとても小さなロボットではなかっただろうか?


 俺の元居た世界では、これもまたパワードスーツ同様、SFに近い代物だった。


「ほぅ……話し合う余地があると? それはいい。他所の世界に知性を期待してはいなかったんですがね」


 この期に及んで悪役っぽい語り口で攻めるキョウジがそう言うと、ドクターダイスはパチリと指を鳴らした。


 すると床からドロッと出て来た液体状の金属が台座になり、見覚えのあるペンダントを乗せていた。


「モチロンじゃとも。わしは興味津々じゃよ? 例えば―――こいつとかな? これはなんじゃろうな? お主の使う技術とは系統が違う気がするんじゃが?」


「……」


 ダイスの質問に、キョウジは黙り込んでダイスを睨みつけることで応えた。


 俺はその時、妙なところで感心していた。


 この二人、妙に悪党風が板につきすぎている。


 ここまでくると、なんかもう並々ならぬこだわりがあるとしか思えない。


 さすがである。


 俺もこういう自然なレベルでヒーローしていきたいなって思ったが、まだまだ修行が足りなかった。


 ダイスは台座を一瞥し、にゅるりと伸びて変形した台座はペンダントをダイスの前に持ってくる。


 キョウジの鋭い視線をまるで無視したダイスはそれをつまんで手のひら弄んでいたが、ペンダントを彼の前にちらつかせながらダイスは交渉し始めた。


「まぁこれの研究はおいおいと言う感じじゃな。それよりもわしはお前さんに提案がある。お主わしに協力せんか?」


「……なんだと?」


「わしはこれでも科学者でなぁ。未知の技術は何でも興味があるんじゃよ。この世界は面白いぞ? せっかく巡り合ったのも何かの縁じゃ。手を貸してくれるというのなら、わしもお前さんを手伝ってやろう」


 キョウジは警戒していた。しかし彼に取れる選択肢もそう多くないと思う。


 だがその上でやはり悪役っぽく余裕の笑みを浮かべたキョウジ氏に、俺は心の中で拍手を送っておいた。


「……ほほう。それは面白い話ですね」


「じゃろう? わしの名はドクターダイス。異世界から紛れ込んだ科学者じゃよ?」


「……私の名はエンジョウ キョウジ。元の世界では教授と呼ばれていました。その話受けましょう」


 お互いに笑みをかわしたのが交渉成立の合図である。


 ダイスがぱちりと指を鳴らすとキョウジは椅子から解放される。


 そしてドクターダイスを中心に、こう俺を含めて三人並ぶようにポジショニングをして、明後日の方を見た彼らは、決意表明をした。


「うむ……幸い異世界から来た者が3人もここにそろっている。仲良くやるとしようかのぅ!」


「!……え? 何それ?」


 いや、俺は別に仲間になるとか言っていないけど? これって意図的な感じじゃない?


 抗議の声を上げようにも、ただ並んでいるだけなので俺は何も言えず、言うタイミングを完全に逸してしまった。


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