キメ顔のドッキリはまじめにダメージ
「ヒョッヒョッヒョッ! いやいやこんなところで再会とは! 人生何が起こるかわからんもんじゃのぅ!」
「……」
ひょいっとUFOを飛び降り、バシバシ俺の腰辺りを叩いている老人は、ドクターダイス。
一見すると背の低くて丸っこい白衣を着たファンキー老人であるが、そのひげは伊達ではない。
この爺さんはとある事件で出会った異世界人で、自称マッドサイエンティストである。
どこまで本当かもわからないが、そう名乗るほどの技術はきっちり持ち合わせている厄介な男である。
だが今はそんなことはどうでもいい。
すぐにでも確かめておかねばならないことが俺にはあった。
「爺さん……さっきのやつらは、ひょっとしてあんたがやったのか? あの女の子も?」
「お? バレたか! なかなか良くできておったじゃろう? お前さんが相手じゃし、趣向を凝らしてみたんじゃよ! 人工怪人と戦闘員はどうじゃっと?」
「あいつらもか! ……すべて演出だったと?」
「ホッホ! よくできておったじゃろ? じゃろ? さすがは世紀のマッドサイエンティストだと褒め讃えてもいんじゃよ?」
どや顔をきらめかせるドクターダイスは、どっきり大成功と看板を掛けているようだった。
だが重要なのはしてやられたということではない。
あんな絵にかいたような状況に嬉々として飛び込み、もう心の底からヒーロー感に酔いしれて、全力でオレつえぇー感じにやらかした俺の心の問題だった。
あまりにも度し難い。
そして騙されて一本取られているなんて、愚か以外のなんでもない。
俺の脳裏にはさっきまでの自分のセリフが繰り返されていた。
「……っ!」
ギリッと奥歯を噛みしめる。
行動のすべてが終わることのない後悔となって全身に重しとなってのしかかると、俺はたまらず押しつぶされて、膝をついていた。
「ぬおおおお! めちゃくちゃ恥ずかしい! なんかもう今ここで爆散したい!」
頭を抱える俺に、ドクターダイスは爆笑だった。
「ヒョッヒョッヒョッヒョッ! そうじゃろうとも、そうじゃろうとも! 見事に引っかかったからのぅ!」
「うなああああ……だって、これ以上ない最高の場面だったんだ! そりゃノるだろう! 気分とか!」
「さすがのわしもあんなノりにノってくれるとは思わんかったぞい!」
「ぎゃああああ……」
ゴロゴロとのたうち回る俺だった。
ひとしきり爆笑して満足したらしいドクターダイスは自分の小型UFOに戻ってゆく。
「……まぁお遊びはこれくらいにしておこうか。今度はわしの実験に付き合ってもらうためにここに呼んだわけじゃし」
そんなことを言いながら、浮かび上がったドクターダイスの真下からドロドロとした金属が湧き上がって、一塊になってゆく。
そいつはうねうねと蠢き、頭部に当たる場所にUFOを取り込むと、巨大な人型に変化した。
「前回は事実上完全敗北じゃったからのぅ……まぁ負けっぱなしはつまらんじゃろう?」
「……」
ドクターダイスの声色にはおちゃらけた空気がなくなっていたのは気が付いていた。
しかし普段なら嬉々として戦っていたかもしれないが、今の俺はもうだまされない。
「……やだ」
「なんでじゃ!?」
何でか焦るドクターダイスだがそりゃないだろう。
今すぐにヒーロームーブはちょっと無理ですやん。
俺は要するに不貞腐れた。