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絵にかいたような

 俺は悲鳴を聞きつけ一も二もなく飛び出していた。


「誰か助けて!」


 助けを求める声がする。そこで飛び出すのがヒーローってものだろう。


「転送!」


 パワードスーツも心なしか、かつてなくスムーズに転送され、その力を発揮する。


 俺は雷の速度で、助けを求める誰かのために駆け抜けていた。


 雷光を纏い、飛び上がった俺は目標を発見。


 視線の先にいたのは、逃げる少女と、追う悪漢共。


 少女は美しく……とても美しく。追う悪漢は鉱物が動き出したような異形の化け物たちであった。


 俺は颯爽と少女と化け物たちの間に飛び込んでいた。


「まてぇぃ!」


 土埃を巻き上げ、放電の光が塵の間を弾ける。


 背後の少女は目を大きく見開いていて、驚くのは無理もなかった。


 俺はまずは彼女を安心させるべく、声をかける。


「ケガはないか? もう大丈夫だ!」


 基本は抑えた、問題ない。


 どっちに味方するかは、刹那に決めた。


 だが今は、安全確保が最優先だ。


 俺は敵と定めた相手の異形を睨みつけた。


 目の前にいるのは三体。


 簡略化した人型のようなそいつらは、二体がのっぺりとした岩でできた人形のようで、手に金属製の槍を持っている。


 そして真ん中の一体は、同じく岩製であるものの、一回り大きく造形が洗練されていた。


 人の体にワニの頭がくっついたようなそいつの目はルビーのような鉱石が光っている。


 その姿はまるでワニの怪人だった。


 俺はそんなワニ怪人を指さして言い放つ。


「女性を複数で追い回すなんて、ちょっと趣味が悪いな! 俺が相手になってやろう!」


 ああ、これは完全にヒーローなのではないだろうか?


 ワニの怪人は俺に牙をむき、バッと手をかざして、ためらいなく兵隊達をけしかけてくる。


 兵隊達は槍を構えて飛び掛かってくると、その槍から薄紅色のビームのような刃が飛び出した。


「うぇ! ビーム!?」


 いやいやビームって! 


「……いや問題ない!」


 そんな動揺はこの瞬間のカッコよさに勝るものではない。


 ビームの槍、上等である。


 かなりの速度で迫りくるビーム刃を俺は軽やかなステップでかわし、兵たち士の首筋に手刀を一閃。


 左右で一撃ずつ見舞った手刀は吸い込まれるように命中し、兵隊は崩れ落ちた。


 手ごたえあり。


 俺の鮮やかな手並みに驚いた風のワニ怪人は、ガラガラの声で俺に話しかける。


「……なかなかやるようだな。だがその女は渡してもらうぞ」


「やれるものならやってみろ!」


 ワニ怪人はいきなり両手を地面に肘まで差し込んで、引き抜く。


 すると両腕が巨大な岩の塊となり、ガキンとトゲが飛び出した。


「食らえ!」


 岩の大腕を振り回し、ラリアットしながら突っ込んでくるのは中々ロマン攻撃である。


 その回転はすさまじく、気流は乱れて竜巻まで発生していた。


 だが竜巻ならば、中心を狙うのがセオリー。


 俺は力いっぱい跳躍して、ワニ怪人の頭上を取った。


 目指すは一点。


 目標を定め、空中に足場を作り出した俺は、まっすぐ竜巻の中心に向かって渾身のキックを叩き込む。


 ガンと空中の足場を蹴った轟音はまるで雷鳴だった。


 マフラーが赤い尾を引き、流星となった俺は足に猛烈な衝撃を感じていた。


 キックの衝撃で吹き飛んだ、ワニ怪人はどさりと落下し、完全に戦闘不能である。


 完全勝利。


 そんな言葉が頭をよぎった。


 俺は一息つく。


 安全は確保できただろう。では、被害者のケアが次にすべきことだった。


「お嬢さん。すみません。荒っぽいところを見せてしまって……」


 振り返った俺はにっこりと笑い、追われていた少女を振り返ると少女は一目散に俺に駆け寄ってきて、飛びつきからのハグである。


 まいったな。情熱的だね、どうも。


 だがまぁ非常事態だこういうこともあるだろう。ヒーローはこんな時、動揺したりはしないのである。


「お嬢さん、落ち着いてください。もう安心ですよ」


 あくまで紳士的に彼女を抱きとめたわけだが……その体はひどく重い。


 いや、女性に重いとかそんなお口が裂けても言うべきじゃない。


 しかしだ。いくら何でもパワードスーツ越しでも重いと感じる重量は正直尋常ではない。


「お、お嬢さん?」


 俺の呼ぶ声は思わず裏返ってしまった。


 だが反応して俺の顔を見た美少女はニマリと笑って、どろりと溶けた。


「ひぃ!」


 なんだそれ! 軽くトラウマを植え付けられた気分だよ!


 思わず悲鳴を上げたが、身じろぎもできない。


 なぜなら押し付けられた少女の体はドロドロと液体のようになって、俺の体を完全に拘束していたからだ。


「い、いやちょっと……これはまずい……!」


 更に俺の体はずぶずぶと地面に沈んでいて、悲鳴を上げる間もなく完全に沈みきるまでに数秒もかからなかった。


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