見境のないやべー奴
「その機能、初めて見るな」
こう、変な石だとは思っていたが、見た感じ思っていたよりもずっと便利に使えそうだった。
感覚的にはファンタジーチックな賢者の石からSF的なスマホにイメージが切り替わった感じだろうか?
気軽に使えるのなら面白い話である。
タカコは何をそんなに焦っているのか、言ってることはしどろもどろだった。
「……秘密にしていたわけじゃないんですよ? ただ個人情報の範疇なので言ってなかっただけで」
「へぇ」
なんとなく頷いて見せるとタカコはビクリと身をすくませて、ペンダントをかばった。
「本当にこれ個人情報の塊なんです! 見られたら死ぬんです!」
個人情報をやたら強調するあたり、まぁアレをいじくることができれば、秘密なんてなくなるレベルで、情報は詰まっていそうである。
「そうか死んじゃうのか。そいつは大変だ」
「な、なんですかその反応は」
あまりにもあっさりな俺の反応はタカコを警戒させたようだが俺としては心外だった。
「あのなぁ。君は、俺を新しい技術なら何でも奪い取る盗賊か何かと勘違いしちゃいないか?」
「えぇっと、強さのためなら無類の強欲さを発揮するやべー奴とは思ってますけど」
「助けてもらっといてあれだな。君は失敬だな」
「今後のダイキチさんのために正しい認識は伝えといたほうがいいかな? なんて思いまして……」
とんでもねぇ失言をかますタカコだが、まぁ外れちゃいないので仕方がないか。
しかしさすがにその評価は不愉快極まる。なぜならば物取りなどヒーローのすべきことではないからだ。
それに確かにタカコは不信であるが、今のところ脅威ではなく、協力関係もここまでである程度できていると俺としては思っていた。
手に入れたいとかどうとかは、最初にすでに決めてしまったことだから今更だった。
「そうだなぁ。……まぁその手のやつはテラさんで間に合ってる。未知の技術は気にならない訳じゃないけど、必要な情報を提供してくれるのなら問題ない。そのために一緒に行動してるわけだし」
「ま、まぁそうですよね」
「以前取られそうになったって話だから、よくよく警戒しといたほうがいいぞ? それに俺の元居た世界じゃ他人のスマホを勝手に見るのはマナー違反だしな」
「スマホですか?」
「そう。まぁ個人情報は大事って話だ」
当たり障りのないところでは、元の世界の常識というのも持っておきたい。
では早速、その優秀な機能を使ってタカコには一仕事してもらおう。
一から使いこなすよりできるやつに任せた方が楽なのは、高度な文明危機にはありがちなことだと思う。
「それで今回の目標の正確な位置はわかるのか?」
「ええーっと……さっきついでに確認したんですけど。なぜか地下にいることになってます」
「地下?」
だが俺はその言葉に従って周囲を見回す。
滝と川。
それと背の低いまばらに生えた植物。
それらしい山もなければ、入口らしきものもない。
「……」
黙って周囲を観察した俺は、タカコに尋ねた。
「……さっきのレーダーみたいなの、見掛け倒しなんじゃないだろうな?」
「そ、そんなことないです! 本気出したらすごいですよ!」
タカコはむきになってさっきはかばってさえいたペンダントを俺のまじかにつきつけてくる。
それは軽率な行動なんじゃないかと俺はタカコに言ってやりたかったが―――。
「キャー!!!」
「!」
どこからか絹を裂いたような悲鳴が聞こえて来て、それは中断された。