アポさんの秘密
アポさんの無惨な姿に、俺はカッと頭に血が上った。
「くそっ!」
自分の力不足が招いた結果にどうしようもない後悔の念が腹の底で渦巻いていた。
「……この、鎧やろうが……アポさんはなぁ。いい奴だったんだぞ!」
たとえ短い間でも、繋いだ絆は本物だった。
何としてもカタキはとってやろうと、化け物に一矢報いる方法を見つけ出そうとしていると、強烈な違和感が俺を襲っていた。
鎧がどうにかなったわけじゃない。ただその周囲の森が不自然に動いていた。
足下の地面すらウネウネと動き始めて、まともに立っていることすら難しい。
「な、なんだ!?」
これも鎧の能力なのかと疑ったが、肝心の鎧には光っている粒子がまとわりついて、振り払おうともがいていた。
「なんだあれは……」
というか気が付けば森全体が光っている。
そしてランスが刺さったはずのアポさんが、起き上がるのを俺は見た。
「アポさん! 無事だったん……だな?」
歓声を上げた俺は、しかしあまりの様子のおかしさに素直に喜べない。
アポさんの体が光っている。それはそういえば術を使う時に見た光の色に似ている気がした。
体の奥で流れる光は、アポさんの傷に集まり、心臓の鼓動のように明滅している。
脈打つリズムは周囲の森の光ともリンクしているようで、この異変にアポさんが関係しているのは明白だった。
「一体何が……」
訳が分からない俺の耳元でテラさんの警告は突然響いた。
『警告。異常なエネルギー反応を感知しました。すぐに離脱を推奨します』
「異常なエネルギー反応? アポさんか!」
『いえ―――この森全体です』
「なんだそれ!」
鎧の抵抗はもはや必死で、なりふり構わずもがいていたが、その場から動けない。
そして焦った鎧は、問題の発生源っぽいアポさんに注意を向けて、あの歪な槍を投げ放つ。
「アポさん!」
しかし攻撃がアポさんに命中するより前にアポさんの傷口から目が潰れそうな激しい閃光が輝いて、何かが飛び出した。
龍のような形をした光の束がバックリと顎を開いて、飛んできたランス諸共、鎧の全身を飲み込んでかみ砕いたのは一瞬である。
「……」
鎧は全く抵抗する隙さえもなく光の竜に呑まれて、残ったパーツはばらばらと崩れて消えてゆく。
龍は完全に鎧を仕留めたことを確認するとアポさんの傷口に吸い込まれるように戻って、傷はきれいさっぱりふさがってしまった。
数秒後、森の光もアポさんの光も消えた後、アポさんは普通に目を覚まして目をこすりながら俺に尋ねた。
「……寝てた。ダイキチ、ゴメン」
「……ゴクリ」
頭を下げたアポさんに生唾を飲み込んだ。
アポさんたちは自分達のことを森の民と呼んでいたが、それは単なる呼び方以上の意味がある事なのかもしれない。
ひょっとするとやたら臆病ですぐに気を失うのも、その方が都合がいいからなのではないだろうか?
例えば危険な捕食者を見極めて、逆に返り討ちにするためとか。
あんなわけのわからないものが突然現れるようなところでアポさんたち森の民が穏やかに暮らしていられる理由は単純だ。
彼らこそがここの覇者なのだ。
そう思えばなんとなく納得もできることが多かった。
まぁ、全ては憶測である。
「どうしたダイキチ?」
「いや……やっぱ俺達ちゃんと結界の外に出て来てたんだなって」
「? そうなのか?」
不思議そうに首をかしげるアポさんに俺は穏やかに笑って頷き、出来る限り迅速に森の中の採集を続けることにしたのだった。