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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
未知との遭遇編
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新装備

 全力疾走というわけでもなく、しかし決して速くもなく、鎧の騎士は迫って来る。


 パワードスーツは装備済みだが投げつけられるランスは、とんでもなく速い上にいつの間にか鎧の手に戻っていて、いくらでも飛んできた。


 正直一瞬も気が抜けない。


 そんなことをしようものなら、パワードスーツごと風穴を開けられるだろう。


「アレは一体なんなんだテラさん?」


『アレとは? なんでしょうか?』


 頼みの綱のテラさんの言葉は非常事態を前にして、緊張感に欠けていた。


「おいおい、今はジョークは飛ばせないぞ? ……目の前にいるアレだよ。馬に乗ってる変な鎧だ」


『不明です。各種センサーには一切反応がありません』


「反応がない? そんなバカな……」


『ありません。そこには何もいないはずです』


「……」


 テラさんの返事で鳥肌が立つ。


 あの存在感の塊のような鎧の化け物がいないとはいったいどういうことだろう?


 だがあいつは実際に目の前にいて、命を狙ってきている。


 テラさんがあてにならない状況は、俺にとってかなり致命的だった。


「……じゃあ自分でどうにかするしかないよな」


 俺の後ろではアポさんが白目をむいて倒れている。


 置いて逃げることなんてできないのだから、攻めあるのみだ。


 力を溜め、俺は地面を蹴った。


「二基積みのエレクトロコアは伊達じゃないぞ!」


 馬だろうが鎧だろうがそう簡単にパワー負けはしない。


 俺は叫んで不安を吹き飛ばし、鎧に接近して拳を繰り出す。


 相手の鎧は俺に反応することもできていない。


 とった!


 そう確信した俺は、しかし肝心の手ごたえをまったく感じることができなかった。


「なに!」


 輪郭のぼけた鎧の真ん中を拳は通過した。


 空気を殴ったように感触がまったくなく、黒い鎧の形が崩れ俺の視界から消えたのと、背後に強烈な寒気を感じたのはほぼ同時である。


 俺は咄嗟に身体を捻るとランスが後から飛んできた。


 無理な体勢でかわして距離を開けるが、俺の心臓は早鐘のように脈打っていた。


「あっぶねぇ! 今のは死ぬところだ!」


 鎧は全く堪えた様子はなく、黙って俺の方に注意を向けている。


 そのあまりの不気味さに俺は一歩後ずさった。


「ぜんぜん効いてない。どうなってる」


『正体不明の相手に接近したのですか?』


「う……すまん。できれば倒した実感が欲しかったんだよ」


 見透かされたようで口ごもるが、そのわずかな希望も無駄に終わったようだ。


 あまりにも殴った手ごたえがなさすぎる。


 手持ちの武装でどうにかできる気がまったくしないのは絶望的だった。


「ええい! やってみるしかないだろう!」


 それでも何もしないという選択肢なんてない!


 俺は両手をかざしエネルギー弾を連射する。


 光弾の弾幕は、周囲の地形ごとまとめて吹き飛ばすつもりで放ったのだが、鎧と馬はヒュオッと風のように弾幕をすり抜けて、躍りかかって来た。


「ぬお! のろいと思ったが、襲い掛かるとかもあるのか!」


『遠距離攻撃はわずかでも効果がある可能性もあります。ただし情報はマスターの主観のみですので、口頭での解説をお願いします』


「余裕があったらね!」


 鎧の槍は高い位置から突き刺してくるが、余波でも大木に穴を穿つ非常識さだ。


 隙を見て俺は何度か殴ってみたが、やはりすり抜けるばかりで鎧にも馬にも当たらない。


 とにかく苦し紛れにかわすことに集中し、大雑把に振り回されるランスの攻撃は避け切ったがこうまで一方的だといつまでもかわし続けることは難しい。


「一方通行ってそりゃないだろうが……」


 毒づきながらの悪あがきの意味は薄く、どうにも注意すら引き付けられているのかも曖昧だった。


 そしてついに、最悪の瞬間はやって来た。


 気が付けばアポさんから遠ざけるつもりが、追い込まれていたらしい。


 俺の背後にはアポさんがいて、鎧はランスを振りかぶり、投擲。


 ランスは俺めがけてまっすぐに飛んでくる。


 かわすことは出来ず、逸らすこともできない。


「!」


 その瞬間、俺は―――肩に装備した新たなギミックに手を添えるとバシュっと音がした。


「……助かった。いけるなこれ」


 攻撃は防いだらしい。


 投擲されたランスは俺に当たる直前に消えていた。


 そして広がった真っ赤なマントを纏った俺は、その効果を体感する。


 小型の収納装置から飛び出したのは、森の民たちがアイテム袋の術を外側に施した特別製のマントだった。


 俺はそれをランスに向かって使うことで、防御に使ったのだ。


 まるで衝撃すらなかったことに、俺はヘルメットの下でにやりと笑みを浮かべていた。


「この特製マントはどんなものでも中に取り込む最強のシールドとなる……百回限定四次元マントってところだ」


『なるほど。そういうことでしたか』


 テラさんが感心したような声を上げていたが、俺はぶっつけ本番で上手くいったことに心底ほっとしていた。

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