それはいつだって突然やって来る
「うん、思ったよりも順調だな」
そう、思ったよりずっと順調だった。
友好的な種族にすぐに出会えたことも一つある。得るものも多く、勝てないモンスターにもまだ遭遇していない。
そんな状況が俺の慢心を生んでいたのだろう。
こんな軽口が出たのは最初の狩りから三日後だった。
口は災いの元というが、口に出して早々にフラグを回収するのはやめてほしい。
狩りに出て早々、俺は妙な現象に遭遇した。
忘れてはいないつもりだったが、それはいつも突然やって来る。
「あ、アレは……」
「この辺ではよくある。何かがやって来たんだろう。たいていはガラクタだ」
「あ、そうなの?」
ぐにゃりと風景が歪み、何かが姿を現す。
「……」
「……」
ただ今回やって来たのはガラクタではなかったらしい。
ガチャリガチャリと音を立てているのは漆黒の毛並みを持つ軍馬の馬鎧である。
そしてその上にまたがっているのは西洋風の全身鎧だった。
だがおそらく中に人は入っていない。
兜の中身はどう見てもがらんどうなのに、ランスと盾を携えて生き物のように動いている。
冷気のようなものが漂っている気がするが、きっと気温が下がったわけではない。
「アレはやばいな……」
知らず知らずに俺の体は震えていて、俺は無理やり抑えつけた。
一緒にいたアポは、震えているもののまだ意識は保っていた。
それは純粋に、厄除けの術に対する信頼があったればこそだろう。
「だ・だだ・大丈夫……ゆっくり、ゆ・ゆっくり、ここを離れたら、大丈夫」
「落ち着いてくれ。……そうだな、ゆっくり離れよう」
だが俺はどうにも嫌な予感がしていた。
逃げるのは正解だ。間違いじゃない。
それだけやばいものだと、俺の直感は言っている。
俺達はアポの術に守られていて相手は気が付いていない。そのはずなのに、どうにも俺は背を向けることにすさまじい抵抗を感じた。
アポが少しでも早くこの場を去ろうと鎧に背を向けたその瞬間、俺はゾワッと寒気が背筋を走りぬけ、アポを突き飛ばしていた。
「アポ! あいつ気づいてるぞ!」
間髪入れずに投擲されたランスは恐ろしい速度で飛んできた。
危ないところで俺達の脇を通り過ぎていったランスは目で捉えることもできない。
そしてランスが突き刺さった地面は黒い霧を吹き出し、溶け落ちて、腐った沼の様に変化していた。
「ぐっ……あの武器は触れたらやばそうだ。こういう敵には縁があるなぁ……。アポ、こっからはダッシュで―――ハッ」
そう言いかけて、俺は今の状況が刻々と悪化していることに気が付く。
どさりと崩れ落ちたアポは、完全に白目をむいて気絶していた。
「……オイオイオイオイ! 嘘だろ!?」
確かに今のはショッキングだったけどもうちょっと頑張ってくれ! と悲鳴を上げてもどうにもならない。
放っておくわけにもいかずアポを抱えあげたが、アポの巨体はタカコとは比較にならない。
「……うっ」
だがもたもたしてもいられなかった。
馬がどういうわけか口の中で光る牙をむき、ランスは鎧の手にいつの間にか戻っている。
なんだかよくわからない黒い鎧は、完全にこちらをロックオンしていた。