こっそりと下準備
「そう……シルナークに布を送ってくれって頼める? 大きさは……そう……出来る限り丈夫な奴で色は赤で……ここ大事なところだから」
通信で用件を済ませて、俺は一息つく。
あの服屋のエルフに頼めば間違いない。
シルナークなら、必要以上にいい感じの生地を用立ててくれるはずである。
「いや……どうかな? 最近は変な生地も多いしな……」
一抹の不安がふっと浮かんだが、まぁ何とかなるだろう。
パワードスーツのパワーアップ案を熱く語り一息ついていた俺に、テラさんから確認が来た。
『また新たな構想があるのですね』
「そうだとも。まぁうまくいくかはわからんが、たぶんうまくいくはずだ。テラさんにも加工頼むぞ?」
『技術的に不可能でなければ、すぐにでも取り掛かります』
「さすがテラさん。いやなに、いつもより難易度は低めだよ……たぶんね」
『そう願いたいものです』
たぶん出来ると思うけど、やってみなければわからない。
アイテム袋はそれだけの可能性を秘めていると俺は思っていた。
「アイテム袋は便利だよな……なぁテラさん。あの袋キャンピングカーもしまえると思うか? 今回もだが案外車で進めない場所も多いから持って歩けると便利だと思うんだが?」
『そこは試してみるしかないかと』
「……まぁそうだよなぁ」
しかしなんにしてもそのためにはアポたち緑の民と信頼関係を構築することが求められている。
となれば、俺に出来ることはひとまずあれくらいだろう。
俺は気合を入れて、頬を叩いた。
「さて、じゃあさっきのトカゲがまだいるか探してくるかなぁ」
『狩りですか?』
「ああ、あのうまいトカゲなら、物々交換もできそうだしな。それにせっかく旅に出たんだ。これからはガンガン戦闘のデータも取っていくぞ?」
今までも人命救助やら、戦闘やらでデータは取れていたが、やはり隠れてとなると思う通りに行かないことも多かった。
だが今ならば人目をはばかる必要はかけらもない。
更なるパワードスーツの性能向上は、まだ始まったばかりだ。
やることが沢山あると自覚するとモチベーションも上がって来るもので、なんだか気分も盛り上がる。
「うん! なんか燃えて来たな! こいつは狩りに全力を出す時が来てしまったかもしれないな!」
『問題ないでしょう。生物のデータも取りたいので、サンプルの採取もお願いします』
「テラさんも中々勤勉だなぁ」
『データは大事ですよ。AIの性というモノです』
「そういうもんか」
『そういうものです』
ならばいつも世話になっているのだ、その願い叶えねばなるまい。
パワードスーツ全力稼働なら、大抵の獲物はしとめてこられるだろうなんて俺は気楽なことを考えていた。
「まぁタカコばかりに苦労かけるわけにもいかないよな。あとで見に行ってみるか」
『彼女の持つ知識も興味深いものがあります。有益なものは保存しておきたいですね』
「確かにそうだけど。まず料理本ができそうだな」
『それはそれで有意義では?』
「これからは特にそうだろうなぁ」
集められる物はなんでも集めて利用するのがこの旅の一番の目的だ。
そのあたりテラさんは俺以上に理解しているようだった。